イスラエルとパレスチナと『The Last of Us Part II』。──現実における“暴力の連鎖”

宮本茂の幼少期のボーイスカウトでの経験がゼルダの伝説を、田尻智の少年時代の昆虫採集がポケモンを、鍵っ子だった小島秀夫のハリウッド映画や冒険小説への憧れがメタルギアを生み出したように、ビデオゲームの遊びはクリエイターの原体験と密接に結びついていることがある。

2020年に発売された『The Last of Us Part II』もシリーズのクリエイティブディレクターであるニール・ドラックマンの経験から生まれた作品だ。

The Last of Us Part II』

ニール・ドラックマンは1978年にイスラエルで生まれた。1989年に家族でアメリカに移り住むまでの間パレスチナヨルダン川西岸地区にあるユダヤ人入植地で幼少期を過ごした。日常的に暴力が隣り合わせな環境でコミックや映画、メタルギアなどのビデオゲームといった娯楽に触れて育ったという。

2000年、ドラックマンはヨルダン川西岸で2人のイスラエル兵が群衆に集団リンチされ殺されるニュース映像を目にする。これを見たドラックマンは「この恐ろしい行為をした連中を皆殺しに出来るボタンがあれば、押して彼らに同じ苦しみを与えてやりたい」と感じたという。しかし、時間が経つにつれ、その考えに対して自己嫌悪と罪悪感を感じるようになる。*1 この時の経験こそが『The Last of Us Part II』の壮絶な旅路の原点だ。「普遍的な愛と同じように、この激しい憎しみをゲームを通してプレイヤーに感じてもらえないか?」そのアイデアから『The Last of Us』の続編は作られた。

ボタンを押せ。“正義”を果たせ。/『The Last of Us Part II』

ゲームの冒頭で主人公エリーは恋人のディーナとともにシナゴーグを訪れる。ここではディーナの口からユダヤ人の歴史や文化について説明が行われる。異端審問やホロコースト、2000年に渡る迫害の歴史の中で、何があっても“生き抜く”ことを伝統としてきたと。

The Last of Us Part II』

1948年、自らの国を持たず長い間迫害されてきたユダヤ人たちは、パレスチナの地にユダヤ人国家イスラエルの建国を宣言する。パレスチナには古くからアラブ系であるパレスチナ人が数多く住んでおり、この一方的なイスラエルの宣言に周辺のアラブ諸国は反発、第一次中東戦争が起きる。この戦争で70万人以上のパレスチナ人が難民となる。1967年の第三次中東戦争イスラエルアラブ諸国に圧勝するとヨルダン川西岸地区ガザ地区を軍事占領下に置く。以後、イスラエルの占領下でパレスチナ人は住んでいた土地を追われ、生活を破壊され、迫害されていくことになる。歴史の中で迫害されてきた側であったユダヤ人たちが自分たちの国を作り、それをなんとしてでも守り“生き抜く”という意識の中で迫害する側に回ってしまったのだ。一方、パレスチナ人の側からはイスラエルからのパレスチナの独立を目指すパレスチナ解放機構(PLO)が生まれ、そうした中からテロ活動などの暴力的手段に出る者が出てくることになる。イスラエルはテロ組織への対策として占領地に対する分離壁や検問所を建設、ガザ地区の封鎖や空爆、地上攻撃を行い、ヨルダン川西岸地区へはパレスチナ人住居の破壊、ユダヤ人入植地の建設を押し進めていった。パレスチナ側との和平交渉が破綻するとこうした動きはさらに強くなっていく。

シアトルの隔離壁コンセプトアート/『ジ・アート・オブ The Last of Us Part II』

ゲーム序盤、復讐を果たすためシアトルにたどり着いたエリーの前に巨大なコンクリート製の壁が姿を現す。寄生菌によるパンデミック発生当初、米政府の対策組織FEDRAが感染拡大を防ぐために隔離地域を囲うように作った隔離壁だ。この壁はイスラエルの作ったヨルダン川西岸地区分離壁と瓜二つだ。

ヨルダン川西岸地区分離壁/Photo by Chris Yunker Licenced under CC BY 2.0

ゲームを進めると抵抗組織を黙らせるために軍が壁の中を無差別に爆撃したという会話を聞ける。ここでは明らかに政府軍がイスラエル、抵抗組織がパレスチナ側として描かれている。

The Last of Us Part II』ではワシントン解放戦線 (WLF) と名乗る抵抗組織が軍を追い出した後のシアトルが舞台となる。シアトルの覇権を握ったかに見えたWLFはセラファイトと呼ばれるカルト宗教集団とシアトルの肥沃な土地を巡って勢力争いを繰り広げていた。物語の視点が切り替わるゲーム後半では、一時はセラファイトとの休戦協定が実現していたものの、抵抗してきたセラファイト側の子供に対してWLFが銃で攻撃したことにより休戦が破綻したことが語られる。軍との関係ではパレスチナ側のように描かれていたWLFだがセラファイトとの敵対関係ではむしろイスラエルと重なる描写が多くなる。この休戦協定破綻の経緯もパレスチナインティファーダを彷彿とさせる。他方、セラファイトもWLF支配地域内に宗教的な聖地が存在する点、本来の教義から逸脱した暴力的手段の行使、WLFから隠れゲリラ攻撃を仕掛けるため高層ビルの間に架けた橋を使うなどパレスチナを想起させる。

セラファイトの使う“橋”。パレスチナの地下トンネルを思い起こさせる
The Last of Us Part II』

ゲームのラストでは、エリーは憎き復讐の相手であるアビーを殺さず、逃がすことを選択する。この結末は賛否を呼んだが、実は開発の途中までアビーを殺すエンディングが検討されていた。公式アート集『ジ・アート・オブ The Last of Us Part II』にもナイフでアビーを殺すエリーのイラストが掲載されている。

このバージョンの結末ではエリーが指を失いギターを引けなくなる経緯も今とは異なっていた。エリーはついに復讐を果たし、農場へと戻ってくる。そこで見知らぬ襲撃者の待ち伏せにあい指を失う流れであったという。シアトルで殺した“誰か”の仇を取りに来たまた別の“誰か”に襲われる。復讐の連鎖が終わらないことを暗示する、今以上に陰鬱としたエンディングであった。「復讐は何も生まない」という使い古された台詞がある。しかし、現実では復讐は新たな復讐を生み出していく。

www.bbc.com

2024年2月現在、昨年10月のハマス襲撃以降のイスラエル側の報復攻撃によるガザ地区の死者数は2万5000人を超え、この中には約8000人の子供を含むという。ハマスによる攻撃は当然許されるものではない。しかし、それによってイスラエルの行っているジェノサイドが正当化されるわけでもない。今回の報復攻撃で戦争孤児や家族友人を失った人が大勢生まれたはずだ。その中から暴力に訴える者が新たに出てくれば、まさに“暴力の連鎖”が続いていくことになる。

www.vice.com

海外では『The Last of Us Part II』に対し「イスラエルパレスチナの関係に当てはめた時、ゲームがイスラエルの側の立場に偏りすぎではないか?」という声がある。フィクションにおける“暴力の連鎖”は暴力的な手段に訴えた時点で双方に落ち度があり、同じ穴の狢であるというように描かれがちだが、現実のイスラエルパレスチナはそれぞれが迫害してきた側と迫害されてきた側だ。前者が迫害をやめない限り問題の根本的な解決はない。

The Last of Us Part II』

ゲームでは、エリーはすんでのところで踏み止まる事ができた。いつかイスラエルが踏み止まり、パレスチナ国家の存在を認め、双方が平和に共存できる日が来ることを願うばかりだ。

 

 

2023年に遊んだゲーム

今年買って良かったものは何と言ってもPS5!!!

 

……ではなく、そのコントローラーの充電スタンドです。

デュアルセンスバッテリー持ち悪すぎ。自分は上の物を買いました今から買うならこちらの物のほうが良いと思います。公式ライセンス商品なので。
 
あとはAmazonでPS5用に買った謎の爆安SSDも良かったです。少なくとも今のところ問題なく動作しています。

ゲーム機の拡張ストレージなんてどうせ壊れてもまたダウンロードすればいいデータしか入れませんからね。
 
というわけで2023年はPS5を買ったり、ゼルダピクミンスパイダーマンと何年も待っていたシリーズの最新作が発売されたり色々とありました。
 
年末になると色んな人のその年の映画や本、ゲームのベスト10なんかが流れてきてそれを読むのが結構好きだったりします。なので今年も自分の遊んだゲームについて自分自身用の備忘録も兼ねて簡単にまとめておきます。以下お品書き。
 

 

返校

1960年代台湾を舞台としたホラーゲーム。自国の政治的弾圧の歴史からこういうゲームが出てくるのがまずすごい。ゲゲゲの謎がヒットしてるしてる本邦でも戦中戦後を題材に政治性の強いなんかいい感じのホラーゲームとか作れないですかね。

VA-11 Hall-A ヴァルハラ

腐敗と犯罪蔓延る猥雑な街で色んな人が色んな理由でバーを訪れカクテルを頼み、仕事や親兄弟、恋人、想い人といったそれぞれの悩みや歓びについてこぼしていき、それに触れる中で主人公、そしてプレイヤー自身も人生に対してすこし前向きになれるハートウォーミングな良いゲーム。BGMもすてき。

オーシャンズハート

ゼルダの伝説ファンの作ったゼルダライクのインディーゲーム。謎解きもゆるく戦闘も大味。剣がかなり強く、謎解きにおけるアイテムを使った凝ったギミックなどもないので結局最後まで使わないアイテム多数。2Dゼルダピクセルアートが好きなのは痛いほど伝わるが音楽やレベルデザインは本家には遠く及ばずストーリーも弱く面白いかと言われるとかなり微妙。ブレスオブワイルドと同じようにメニュー画面から回復アイテムを使うシステムになっているが、ブレスオブワイルドのシステムはオープンワールドで手に入る素材アイテムや料理の仕組みありきの作りなので、シンプルな2Dゼルダライクをやるのなら普通にハートを拾うと回復するという昔ながらの形のほうがゲームの流れも止まらず良かったように思う。ゼルダピクセルアートは好きだけどゲームデザインにはあまり興味ないのかなと思ってしまった。Switchでこれをやるくらいならニンテンドーオンラインに入って『ふしぎのぼうし』をやりましょう。

パラノマサイト FILE23 本所七不思議

墨田区本所を舞台とした怪奇アドベンチャーゲーム。個人的に2023年に遊んだ中で一番推したい一本。選択肢式だったりポイント&クリックだったり群像劇型だったり脱出ゲームだったりアドベンチャーゲームの色んな要素詰め込みつつ360度背景を効果的に使ったシステムやギミックもやってて最後の最後までプレイヤーを飽きさせない。会話シーンも360度背景使って擬似的にカメラワークやアングル動かしたりして立ち絵の棒立ちにならないように工夫されており、小規模作品ながら非常に良く出来ている。どんでん返しのストーリー、ホラーゲームらしくゾッとする話の合間合間に挟まれる魅力的なキャラクターによる軽快な会話劇、インタラクティブなゲームという特殊なメディアに自覚的なシナリオと演出と褒めだしたらきりがない。ゲームというメディアならではの体験という意味では間違いなく今年最高級の一本。非常におすすめ。

10時間程度クリアできるので興味がある人は是非遊んで欲しいが、ジャンプスケアがあるのでホラーが苦手な人はそこだけ注意。

どうしても記事のサムネイルに使いたかったスクショ

Far Cry 5

一見アメリカを馬鹿しているように見えて実はプレイヤーのことを一番馬鹿にしてると思うし、自分はそういうゲームが好き。

アメイジンググレイスを使ってるゲームは名作。(例:レッドシーズプロファイル)

ASTRO's PLAYROOM

PS5に最初からインストールされているデュアルセンスコントローラーのデモンストレーションみたいなゲーム。「アクションゲームとして普通に良く出来ている」という評判をよく聞くが自分としてはそうかなあ?というのが正直なところ。

トロフィーで「Do it !」ネタを拾っていて笑った。

DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT

デスストランディングのPS5版。

地面を踏みして荷物のバランスを取りながら歩くことに主眼を置いたゲームデザインとPS5コントローラーのおもしろギミックは相性バッチリだと思うのでDS2ではもっとブラッシュアップしていって欲しい。

nix-51.hatenablog.com

ゲーム中の「アセクシュアルな世界」のテキストが修正されていたことは素直に喜ばしいが、コジマプロダクションが会社としてこの件にアナウンスメントしていないのは残念。プライド月間にこういう投稿するのならなおさら。

 

Horizon Forbidden West

 

あらすじ : イーロン・マスク(※イーロン・マスクではない)のせいで地球はもうめちゃくちゃ。一方、宇宙からはジェフ・ベゾス(※ジェフ・ベゾスではない)とキャリー・アン・モス(※本物)が新たなる脅威と共に地球へと迫っていた……。*1

 

長いので折りたたみ

 

不満点
  • 箱をつかむのが△ボタンなのに箱を放すのは○ボタン。かと思えば拾った重火器放す時は△ボタン。ぶら下がってる時や崖っぷちでは□ボタンで降りるなのに空中だと□長押しでシールドウィング使って滑空だったり、ジャンプボタンは✕なのにぶら下がってる時に反対側へ飛び移る時は○ボタンだったり、なんとなく直感に反するボタン割り当てなのとても気になる。
  • 自分がステルスキルがしたくて草に隠れて敵がこっちに来るのを待ってるのに主人公が「そのまま帰って……」とやり過ごそうとするセリフを言ったりするのでプレイヤーと乖離が生まれている。草むらに隠れてる状況からでも奇襲して正面から突っ込むか?ステルスでやるか?そのままやり過ごすか?と戦略的な選択肢が豊富だしプレイヤーのプレイスタイルを学習してアーロイの発言が変わっていくくらいのことしないとプレイ中に喋りまくるのはノイズ。
  • ダッシュ時のジャンプが一瞬止まってその場で垂直方向に高く飛ぶみたいな挙動してて触ってて気持ち良くない。
  • 固有名詞が多くて話が頭に入ってこないのでゲーム内に辞典が欲しい。サイドクエストの敵拠点制圧をほとんど進めないでストーリー進めてるとテナークスの逆賊と闘ってると思ってたらなんの説明もなくオセラムの過激派「プロメテウスの民」とかいう知らん集団が敵に混じってて混乱した。キャラ紹介と前作のあらすじがあるのは良かった。
  • 流行ったAAAゲームの要素のパッチワークにしか見えない点多数。料理とか同ジャンルの他のゲームがやっているのでウチもやってみました!以上の考えがあるように見えないし、動物狩猟要素なんかもただただポーチの拡張しづらくなってるだけでゲームの面白さには一切寄与してない。
  • 水中が楽しくない。移動速度は制限されるし、攻撃手段封じられるので基本敵から逃げ隠れするしかないし、水流で移動ルートも制限されるしで本当に楽しくない。
  • グラップルは可能な場所が限られていて普段の戦闘や移動であまり活かされていない。と思えばダンジョン内で思い出したかのようにそれを使わないと進めない場所が出てきたりする。結果としてプレイヤーはグラップルの存在を忘れているのでダンジョン攻略が詰まったりする。
  • ダンジョン内の導線等、プレイヤーに何をさせたいのかよく分かんないことがままある。一度目のエリック戦で「主軸」を狙うやつどこを狙えば良いのか分からなすぎてかなり苦戦してしまった。
  • 探索しててなんか見つけても「ストーリー進めて出直してきな!」が多くて萎える。
  • UIが煩雑。とにかく煩雑エルデンリングにケチつけてる場合じゃないと思う。

    狂気の18分割武器ホイール。
    火の矢と火の改良矢がぱっと見で見分け付かないし、
    それが同じ武器に並んでたりするの普通にやめて欲しい

    エルデンリングゴテゴテUIコラといい勝負
    ネット上で揶揄されてるUBIのオープンワールドゲームの駄目な所って
    今のUBIのゲームよりもホライゾンの方が当てはまっているように思えてならない
  • UIの煩雑さとも絡んでいるが武器の種類や属性攻撃の種類を無駄に増やしすぎ。結局使わない武器が出てきたり煩わしいだけ
  • DLCのラスボス戦が起きてることのスケールの大きさの割にチマチマしてて地味。というかこのゲームのボス戦、結局弓矢で弱点チマチマ狙うみたいなことになりがち。

良かった点

  • ライミングできる場所がフォーカスでハイライトされるようになったのは作品の世界観を活かしつつ見た目の不自然さを減らしながら必要な時はすぐに分かるようになっててすごく良いアイディア。
  • コンボの導入、レゾネーターブラスト等で前作ではヘッドショットか雑に殴るかになりがちだった人間相手の近接戦闘の幅が広がった。
  • 棒立ちアップの会話シーンやアイテム管理まわりなど前作の不満点はかなり改善されている。
  • 相変わらず世界観や主人公アーロイのキャラは魅力的。あんなに快活で豪胆でめちゃくちゃやる主人公なかなか居ないと思う。

 

戦闘やストーリー、ビジュアル、設定は面白いし、会話時の単調なアングルと演技やアイテム管理周りといった前作で駄目駄目だった部分はしっかりと改善している一方で、オープンワールドやクエストの仕組みが10年前のゲームか?という感じだったり今作からの要素がいまいちだったりで、光るものはあるもの残念な点も多く次回作でのさらなる改善に期待で星3つですね。(5段階評価)

ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム

プレイヤーが自由にどこへでも行けるオープンワールドとそこでストーリーを展開することは相性が悪い。世界を救う使命を持った主人公がその使命をそっちのけでお使いクエストや寄り道に走ることになったりすることになるからだ。本筋のストーリーとプレイヤーの行動の間に乖離が生まれてしまう。その問題に対し、『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』は「主人公が記憶喪失でかつての力を失っている」という形で解決を図った。プレイヤーは記憶を失って右も左もわからない主人公リンクとなりハイラル各地を回る中で記憶と力を取り戻し、かつての仲間の協力を得てラスボス厄災ガノンに立ち向かう。その過程に決められた順番はなく、自由にどこへでも行けるオープンワールドとストーリーが高いレベルで両立されていた。

ブレスオブザワイルドの続編開発が発表された時、「続編のストーリーはどう展開するつもりなのだろうか?」というのがまず最初に浮かんだ疑問だった。主人公の記憶喪失は二度も三度も使えない。しかし、その疑問は完全に杞憂だった。今回は前作の「ウツシエの記憶」のようにあちこちまわって過去の出来事を知っていったり力を取り戻したりという仕組みは引き継ぎつつ、メイン周りのクエストがみんな「行方不明のゼルダを探すための手がかり」に繋がている。ゲーム開始時にゼルダから告げられる「私をさがして」の言葉がプレイヤーがオープンワールドを旅する動機づけとしてリンクしており、前作以上にストーリーで牽引する作りとなっていた。

また、この「私をさがして」という言葉もなかなか凄かった。ビデオゲームにおける”お姫様”は長いことさらわれたりして助けられる対象であり、ゼルダの伝説ゼルダ姫も近年のシリーズ作までは最終決戦前につられさられたりしている典型的なお姫様だった。それがBotWではリンクが眠るなかでガノンを100年間抑え続けてプレイヤーが遊び呆けてる間もたった独りで戦い続けてるようなキャラクターであった。一方TotKだと「私をさがして」≒「助けに来てくれ」とも取れるようなセリフを冒頭で話す。ところがストーリーを進めると全くそんな意味ではない上、前作以上に覚悟の決まった発言であったことが判明する。そして、プレイヤーはその覚悟を受け止めてラスボスへと挑む決意を確固たるものにする。単純な守られるお姫様と守る剣士ではない関係がそこにはある。

ゲームデザインも非常に良かった。前作からのプレイヤーの「こうしたらこうならないかな?」という発想を受け止めてくれる化学エンジンの仕組みに加え、プレイヤーのクリエイティビティを刺激するウルトラハンド。前作よりも各属性弓矢が気兼ねなく使えるようになったり敵のドロップアイテムに価値をもたせるスクラビルド。ゲームプレイのサイクルに変化をもたらす地下や空島の追加や同じ舞台だからこそ時間の変化を描くことで前作を遊んだプレイヤーに驚きを与えたり世界そのものが生きていると感じさせる地上フィールド。単なる崖も洞窟が追加されたことで探索の対象として広がった。会話ログの追加や写し絵UI非表示、一度作った料理のレシピ保存、宝箱を開けてポーチがいっぱいだった時にその場で武器メニューが開いて武器を捨てられる等かゆいところに手が届く前作からの細かな改善も嬉しい。前作では似たりよったりだったストーリーダンジョンやそのボスが今作ではBotW以前のゼルダシリーズのようなギミックや個性を取り戻していたのも良かった。特に風の神殿とフリザゲイラがお気に入りだ。

一方で簡単なキーコンフィグすらないアクセシビリティの悪さは指摘せざるを得ない。2023年に出てくる1000万本売れるような規模の大作ゲームでこれは問題であろう。また、賢者の能力の誤操作や前作で関わったNPCが初対面みたいな反応をする点、クラフト中に出てくるイーガ団やスタルボコブリン、プリレンダムービーの汚さなどもマイナス点として上げておく。

今作のラスボス戦からの演出も特筆に値する。どこまでも伸びるラスボスの体力バーや最終形態との空中戦、そして物語の序盤でつかめなかった手を100時間を超える冒険越しにもう一度つかもうとする展開。そのためには何をどうするれば良いのかどう操作したら良いのかが、QTEや野暮な操作説明なしでも長い冒険を経たプレイヤーには理解できるエンディングまでの一連の流れは白眉だった。

本作は今年の個人的GOTYだ。

7 Days to End with You

目が覚めると記憶喪失。目の前の人物の話す言葉もわからない。そんな中でなんとか相手の言葉を理解し意思疎通を図りながら7日間を過ごす言語読解アドベンチャー

軽い気持ちで始めたら完全にやられてボロボロ泣いてしまった。おすすめ。双方の作品のネタバレになりそうだから具体的に何がとは言わないけど『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を思い出したりもした。こっちも読んでない人が居たらめちゃくちゃおすすめ。

ピクミン1

任天堂流のリアルタイムストラテジー1作目のHDリマスター版。

ゆるいCMソングやキャラクターのイメージが強いかもしれないが実際のところアクション要素の強いリアルタイムストラテジーであり、マルチタスクやとっさの判断、ある程度プレイスキルが求められるシリーズで、特に1作目はゲーム全体にタイムリミットがあることもあり結構難易度が高い。かわいいCMにつられて買ってクリアできなかったちびっこもたくさん居たんじゃないかと思う。私もオリジナル発売当時は一周目はクリアできなかったが、そこから何度も周回し低日数クリアに手を出したりするようになった思い出の作品。むつかしいのでシリーズ入門には全くオススメしない。

9日クリアが最短記録

ピクミン2

シリーズ2作目。クリアまでの時間制限の廃止と紫ピクミンの追加で難易度は大幅に緩和。一方でトラウマ扱いされる強敵も多く全クリを目指すとそこそこな難易度。私はシリーズで2が一番好き。火を吐いてくる敵キャラに「常温気体中で発火するリン化合物を吐いている」という説明があったり意外とSF的な設定がしっかりしてるシリーズの中でも特に生物図鑑が充実しており読んでいて楽しい。美術もフィールドがマンホールとか歩道になってたりしていて「実際に身近なところにピクミンが居たら?」みたいな実在性が感じられてとても良い。

この雰囲気がたまらなく好き

ゲーム中で集めることになる「お宝」が牛乳瓶の蓋とか乾電池とか実在企業の商品だったりしたのもすごく好きだったんだけど、このあたりはリマスターに際して自社製品以外は差し替えられてしまった。ざんねん。

謎の村雨城

あと「欲棒」のテキストから「なめたりしゃぶったりしたくなる」の一文が消えていた。

任天堂渾身のド下ネタ

真面目な会議の席で「”欲棒”はセーフですが”なめたりしゃぶったり”はやめておきましょう」とか言ってたのかな……。

ピクミン3 デラックス

ナンバリングタイトルの中ではシリーズワースト。オリジナル発売当時これのためにWiiUを買って心底がっかりした記憶がある。ボリューム不足に加え、ゲーム自体もかなり大味になり、上記のピクミン2にあったような美術もなくなり、ゲーム的な都合で作られた不自然なギミックや通路の組み合わせだけで出来たようなステージになり、過去作の航海日誌にあったようなテキストのユーモアも消え去り残念な出来。3で廃止された生物図鑑がSwitch版のデラックスになり追加されたものの、それも過去の作品に比べたらクオリティーで劣り……。そもそも主人公の三人組がまったく魅力的じゃないのでその3人の書いた設定の日誌も図鑑も面白くなく……。

チャレンジモードでハイスコア目指したりするのは結構なんだかんだ楽しい。

ピクミン4

シリーズ初心者にフレンドリーでありながらシリーズ経験者も楽しめる奥深さを持った10年ぶりのナンバリング完全新作にして傑作・集大成。今から初めてピクミンシリーズにふれるのならまず『4』をすすめる。

まず、ピクミン初心者あるあるとして移動してる内にはぐれピクミン出して日没で死亡させちゃうとかいっぱい連れ歩いてていっぱい殺しちゃうのがあると思うが、それに対して『ピクミン4』は相棒のレスキュー犬オッチンに乗ることではぐれピクミンは出ないし、一度に連れ歩ける数もゲーム進行に合わせて徐々に増えていく形になってて初心者が段階的に慣れていける作りになってる。オッチンと一緒に行動してると水も渡れて、ジャンプも出来て、ピクミンの足が遅いのもカバーできるし、戦闘でも頼りになって初心者救済としてめちゃめちゃ強い一方で、このゲームの上級者は別行動させて効率プレイための第二の操作キャラとして扱うので初心者向けの救済と上級者向けのゲームの奥深さのバランスを上手いこと取っている。

出てくるピクミンも9種類にまで増えた一方で地上で連れ歩けるピクミンが3色までに制限されていて、適材適所でどこでどのピクミンを連れて行かか考えないといけないバランス調整になってる。クイーンチャッピーは振り払いが強化されててまともに戦うとピクミンがめちゃめちゃな方向に散らばっていって凄い苦戦するんだけど岩ピクミンで戦えば余裕だったり、ダマグモキャノンは相変わらずだけど羽ピクミン使うとすごいあっさり倒せちゃったりと「このボスにはこの種類のピクミンが強い」みたいな相性がハッキリしているのも連れて行くピクミンの選択に意味を持たせていて好印象。

1作目から続くピクミンに的確に指示出ししてマルチタスクで順序よく作業を進めていく面白さや2の生物図鑑やお宝探索、魅力的な美術、3のチャレンジモードのスコアアタックといった過去作の魅力をきれいにまとめ上げており、まさに集大成的な作品と思う。夜ステージのタワーディフェンスも緊張感がありつつ、疲れ過ぎない短時間でのゲームサイクルになっていてよくまとまっている。ステージもより広く開けた立体的な作りになり、探索の順番やルートもプレイヤーに委ねられていて3のつまらないステージからとても良くなった。

とにかく宮本茂の「完成間近」発言から10年近く待たされたシリーズファンとしては、よく出来た最新作が無事発売されて本当の本当に嬉しいよ。

www.gamespark.jp

Portal & Portal2

こういう物理パズル良いよね……。

スラスラ解けるとなんか頭良い気がして……。(頭の悪い感想)

Stray

Unpacking

引越荷物の荷ほどきを通じて荷物の持ち主の人物像や人生の節目節目を感じるストーリーテリングが秀逸な一作。あと音が気持ちいい。

この主人公2013年に一度実家に帰ったあと引越し先にGCコン2つも持って行ってるのでスマブラガチ勢だと思う。Wiiリモコンは一つしか持ってないのに。

Ghost of Tsushima Director's Cut

インファマス2』のサッカーパンチプロダクションズの送る蒙古襲来を題材としたオープンワールド時代劇アクションアドベンチャー。……インファマス2すごく好きなんですよね。アクションゲームとしてとても触り心地が良くって……。

刀一本で正々堂々真正面から戦うのも、あらゆる飛び道具を使って敵を翻弄するのも、ステルスプレイで静かに一人ひとり倒していくのもプレイヤーの自由。そしてそのどれもがとても面白く、敵を切り捨てたあとに納刀するアクションを決めるのがとても気持ち良い。このゲームをやってるとお侍版RDR2(刀に手を伸ばしたり、鯉口を切ったりする動作がプレイヤーの操作で出来るしそれがNPCに対する敵対行動になったりする)とかやってみたくなる。

フォトモードでAKIRAパロディができるゲームは名作

ローカライズの質もかなり高く、時代考証的な正確さよりもわかり易さを優先していながらも時代劇としての雰囲気はバッチリ掴んでいる吹き替えはもちろんのこと、ゲーム内のテキストが書いた人間の社会的地位によって漢字が書けず平仮名ばかりだったりするなど非常に芸が細かい。ゲーム部分の作り込みもかなり細かく、SIEのファーストタイトルだけあってPS5のコントローラーの機能を上手く活用していて良かった。

ゲームを遊ぶのと前後して対馬に行ったりもしたので、それもそのうちブログに書くかも(書くかもしれないし、書かないかもしれない。何もわからない)

F-ZERO 99

単なるバカゲーに見せかけてずっと先頭集団走ってると一気に形勢逆転できるスカイウェイを走るためのゲージが溜まらず集団内のどこを走るかのリスクとリターンがはっきりおり、どのタイミングで先頭出るかの駆け引きも相まって思いの外戦略性があり、よく考えて作ってある感じがする。それはそれとして序盤の密集加減はやっぱりバカゲー

Life is Strange 2

メキシコ系アメリカ人の兄弟の兄ショーンを操作し、突如として超能力に目覚めその力で事故を起こしてしまった弟を連れてアメリカからの脱出を図るアドベンチャー

本作はプレイヤーの取った行動を見て弟の性格が変化していくゲームシステムとなっていて、弟の規範となるような行動を取るかどうかという選択をプレイヤーに選ばせたかったのだと思うが、それだったら事故を起こしてしまった時点でむやみに警察から逃げないという一番規範的であろう選択がそもそも選べないのは片手落ち感が否めず最後まで乗れなかった。あと周りの大人も二人をきちんと保護するべき。

一作目の『ライフイズストレンジ』は時間を戻す能力やカオス理論・バタフライエフェクトといったテーマがゲームシステムに有機的に組み込まれていて、プレイヤーが良かれと思って能力を使った結果あとで予期せぬ事態を招いて状況を悪化させるといったゲームシステムが良く出来ていた。一方、2では能力持ってるのが主人公ではなくその弟で、プレイヤーが「あまり無闇に力を使うな」という選択肢を選んでも言うこと聞かずにお遊びで能力使ってしまうような事態が頻発し、その結果大変な事故が起きても明確にプレイヤーが自分の選択で力を使った結果、責任だった1と違い「あ~あ、言わんこっちゃない」という気持ちにしかならずゲームの展開に入り込めなかった。

Life is Strange True Colors

こっちは面白かった。アメリカの田舎町で不審な鉱山事故と地元鉱山を牛耳る大企業の陰謀を追ったりLARPに興じたりと舞台設定やシチュエーションがまず良い。キャラクターも魅力的でDLCの主人公にもなっているステフが特に良かった。

最近のゲームは配信者向けに視聴者投票機能なんてあるんですね。

2にも本作にも言えるがそもそも一作目はアドベンチャーゲームで選択肢を選んだらその後の主人公の言動がなんか思ってたニュアンスと違ったりしてモニョるみたいなのを時間を巻き戻して選択し直せるというシステムで解決していたのがクレバーだと思っていたので以降のシリーズ作でそれがなくなったのは残念だし、そこのゲームシステムを継承しないのなら”ライフイズストレンジ”ではなく、シェアードユニバースの新規タイトルで良かったのではと思ってしまう。それだったら2もそんなにガッカリしなかったかも。

FOAMSTARS OPEN BETA PARTY

オープンβキャンペーンでアマゾンギフト券1万円分をもらいました。ありがとうございます。

アマギフ1万円分を50名プレゼントはマジで太っ腹だと思う。

 

なにかとスプラトゥーンと比べられがちだけどスプラトゥーンの射撃がインクを塗って素早く移動したりインクに潜って隠れたり自分に有利なフィールドを広げるという行為になっているのに対して、ファームスターズの射撃は泡で障害物や高台を作ったり云わばクラフト的な要素であり、そのあたりゲームデザイン的には明確に区別化出来ていると感じた。まあ、一部の必殺技とかスプラトゥーンまんますぎて養護できない気もするが。

ピンチの味方の救助などの要素や弾速が遅いのもありスプラトゥーン以上にエイムやキャラコンよりも立ち回りが大事そう。オープンβの時点でリスポーン地点前に泡で壁を作ってリスキルするみたいな行為が横行していたり、全体的に視認性が悪く、特にダウンを取った敵がパステルカラーの泡まみれで周囲の泡に埋もれて見えづらかったりしたのは要改善だと思う。

 

アマギフもらったのもあって応援したい気もするが、この手のジャンルの新規参入はレッドオーシャンな気がするんですよね……。

Marvel's Spider-Man 2

ゼルダの伝説が今年のSwitchのGOTYならプレイステーションのGOTYは間違いなくスパイダーマン

前作までの武器ホイールを廃止してゲームの流れを止めることなく次々と色んな技やガジェットを使いこなしてスタイリッシュに戦えるようになった戦闘、少し遊んだだけで予算がめちゃくちゃ増えたと分かるゲームの作り込みやスケール感、PS5専用タイトルになったことで移動速度が上がり更に楽しくなったオープンワールドでのウェブスウィング。どこをとっても過去作から順当にブラッシュアップされている。(洗練させるのではなく無駄にごちゃごちゃ要素を足してるホライゾンに見習って欲しい……。)

細かい作り込みやローカライズの質も高い。

 

一作目のスパイダーマンでは、警察周りの描写で警察の監視システムをスパイダーマンが無批判に使うことやライカーズに収容されてる人たちを極悪人みたいに描いてるが現実の実態とまるで異なるなど、NYPDのプロパガンダみたいだ等の批判があったりした。*2 対して今作ではスパイダーマンが警官ごっこ(スパイダーコップ)をやめ、消火活動や怪我人の救助など殴る蹴る以外の人助けの活動をする場面が増えていたり、更正したヴィランを後押しするクエストがあったりする。悪党を倒すのではなく困ってる人を助けることこそがヒーローの本質なのだと立ち返った描写はヒーロー作品として正しい。

超高速のファストトラベルを始めとし、演出面でもPS5の性能を使えばこんなことが出来るんですよ!という仕掛けが目白押し。レイトレーシングに関してはややくどいくらいに活かしたシチュエーションが出てくる。

非縦マルチのファーストスタジオタイトルだけあり、PS5のマシンスペックを体験するのにピッタリの作品になっているのでPS5を手にしたらまず遊んで欲しい。おすすめ。

フォトモードも相変わらず楽しい

PS5のデザイン本当にセンスがないと思う。

十三機兵防衛圏

シナリオの構造が凄すぎて良くこんなもの作ったな……と感嘆半分呆れ半分というか、ほぼ個人制作のインディーゲームなら素直にすげえなと感じたと思うが、こんな複雑なものをビジネスとして会社の中で企画書通して作ったのかなり正気じゃないと思う。本当にすごい。たぶん褒めてる。

最初に遊んでいるうちは話が複雑でクリアしても「面白かったな。(ところであそこのあれは何だったんだ……)」みたいになるんじゃないかと身構えてたけど、複雑なシナリオを想像以上にきれいにまとめ上げてプレイヤーに理解させる手腕にはただただ脱帽。

『渚のバカンス』はもちろん通常戦闘曲も戦闘の記憶と共に耳に残り全体的に曲がすごく良かった。森村先生のキャラデザに関してだけちょっと気持ち悪いなと思ってしまった。

Marvel's Guardians of the Galaxy

ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーのゲーム版。吹き替えで遊んでると「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」と”ザ”が抜けるのが気持ち悪くてしかない。

GotGらしく有名楽曲を使っていたり、道中でのメンバーのたのしい会話が魅力的。あとPS5版だと地味にアダプティブトリガーの使い方が良い。

ゲームの進行に際してガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーの各メンバーに指示を出しながら進んでいくことになるのだが、これが終盤になると指示を出さなくてメンバーが率先して動いてくれるようになるのがベタながらバラバラだったチームが一つにまとまっていく感じがしてとても良かった。

Alan Wake Remastered

アランウェイク2がやたらと高評価なので気になって遊んだ一作目のリマスター版。シナリオが面白くとても楽しく遊んだが、カメラの位置が不安定で終始気持ち悪かった。

SIGNALIS

古き良きサバイバルホラーリスペクトという感じでじわじわと怖くとてもおもしろかった。ストーリーはわけわからん。

まあ、意図的にストーリーが素直にわからないようにしてあるのが明確なのであまり分かろうという気にもならないし、ホラーだから分からないのが良いという気もする。

銃弾の数が限られているなか敵が時間で復活するので、終盤の方になってくると狭い通路に複数配置された敵を見て怖いよりも面倒くさいなの気持ちが出てきてしまった。こういう慣れや飽きを考えるとホラーゲームってボリューム少なめでサクッと終われるくらいのほうが良いのかもしれない。このゲームもこれ以上長かったらちょっとヤバかった。

 

以上。2024年もよろしくお願いします。

ゼルダ史における『ティアーズオブザキングダム』の位置付けは結局どこなのか?開発者の発言や任天堂のゲーム作りから考える。──遊びが先か、設定が先か

ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』はファンの間で『リンクの冒険』のはるか未来の作品であるというのが定説であった。しかし、『ブレスオブザワイルド』の直接の続編である『ティアーズオブザキングダム』で描かれた描写はその定説との矛盾点が多く見られた。では、結局のところ『ティアーズオブザキングダム』のゼルダシリーズの時系列における位置はどこなのか? 作品内の描写、関連書籍、開発者インタビューから探ってみる。

『ティアーズオブザキングダム』発売前

ゼルダの伝説シリーズの時系列は『スカイウォードソード』を始まりとし、時のオカリナで3つに分岐するやや複雑な構造をしている。任天堂公式サイトのゼルダの伝説ポータルに詳しく載っているがこのページでは『ブレスオブザワイルド』『ティアーズオブザキングダム』が他の作品と独立した位置に置かれ、他の作品との時系列的なつながりがはっきりしていない。

『ブレスオブザワイルド』『ティアーズオブザキングダム』の位置は公式からは明言されていない

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インタビューにおいてもハイラルの歴史の最後に位置すること以外は明言されてこなかった。

――ハイラルの歴史において、今回のお話はどこに位置付けられるのですか? 過去のどの作品よりも後のお話なのかな、とは思うのですが……。

 

青沼 それはもちろん最後ですよ。でもまあ、わかります、どのラインに続く最後なのか、という話ですよね?(笑)。

 

藤林 それは……ご想像にお任せ、じゃないですか?

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しかし『ブレスオブザワイルド』発売当時からファンの間では「ブレスオブザワイルドは時の勇者敗北ルートの一番最後にあたる作品である」というのが定説であった。その根拠としてはハイラル城の隠し部屋にあるハイラル王の手記の「王家の習わしに従いゼルダと名付ける」という記述があげられる。

ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド

というのも「生まれた姫にゼルダと名付ける」という習わしがハイラル王家に存在するのは時の勇者敗北ルートの『トライフォース3銃士』のあとに起こった「初代ゼルダ姫の悲劇」という事件以降の時代に限られるからだ。

リンクの冒険』説明書より

https://www.nintendo.co.jp/clv/manuals/ja/pdf/CLV-P-HAASJ.pdf

この王の手記の存在により『ブレスオブザワイルド』は時の勇者敗北ルートの最後に位置する作品であるという説が主流であった。『ティアーズオブザキングダム』発売までは。

「初代ゼルダ姫の悲劇」の存在を根拠としてブレスオブザワイルドは勇者敗北ルートの最後に位置する作品とする説がファンの間で主流であった

『ティアーズオブザキングダム』発売後

『ティアーズオブザキングダム』の発売直前、任天堂が公開した開発者インタビューにて本作で「封印戦争」が語られることが明かされた。

物語としても、今回はハイラル王国の過去にもつながるお話で、「封印戦争」と呼ばれる、今までハイラルでは神話でしか語られてこなかった大きな戦いについて語られます。

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「封印戦争」は時の勇者敗北ルート『神々のトライフォース』の本編前に起きた出来事で、ゼルダの伝説 30周年記念書籍『ゼルダの伝説 ハイラル百科』(p.7,224)では「トライフォースの眠る聖地への入り口を七賢者が封じた」出来事と説明されている。

 

ところが『ティアーズオブザキングダム』で語られた封印戦争は「秘石を手にしたガノンドロフを七賢者が封印する」というまったく別の内容であった。その上、起きた時期も『時のオカリナ』と『神々のトライフォース』の間ではなくハイラル建国直後のこととされ、ガノンドロフ誕生の時期など今までの設定との矛盾点が数多く見られた。

『ティアーズオブザキングダム』で描かれた封印戦争は従来の設定と矛盾点が多く見られた

シリーズの設定に対し開発者はどのような発言をしてきたか

ゼルダの伝説シリーズ総合プロデューサーの青沼英二は過去に「『ゼルダ』の物語はすべて後づけだと言ってもよいかもしれません」と発言している。

もともと「ゼルダ」とは、”どんな物語を描くか”よりも、”何を遊びの中心にするか”というのことを最優先課題として作られたビデオゲームなのです。(中略)そのような作り方をしてきたことを考えると、「ゼルダ」の物語はすべて後づけだと言ってもよいかもしれません。

ハイラル・ヒストリア ゼルダの伝説大全』p.238

ここで「”どんな物語を描くか”よりも、”何を遊びの中心にするか”というのことを最優先課題として作られたビデオゲーム」と語っているように、そもそもゼルダの伝説に限らず任天堂のゲームは遊びが主、物語や設定、デザインが従の主従関係で作られてきた。ゼルダの伝説やマリオの生みの親、宮本茂はマリオのデザインに関して「当時のゲーム機の性能に合わせた結果」と語っている。

そもそもマリオが、ぽっちゃりした体型なのは、あの当時のゲーム機のコリジョンが、四角いボックスでしかとれなかったからなんです。なので、もともと「かわいくしよう」と思ったわけではないんですね。解像度が低いので、顔を大きくしたりだとか、当時のゲーム機の性能に合わせた結果、あのようなデザインになったんです。

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宮本茂「まずは人の顔らしく描こうと。そこで、目を描き、鼻を描き、口を描こうとすると・・・。」

 

岩田「圧倒的にドットが足りないんですよね。」

 

宮本「足りないんです。すぐ8×8ドットになっちゃうんです。それで、鼻を描いてヒゲを描いたら口かヒゲかわからないので、そこでドットは稼げると。」

 

岩田「ヒゲを描けば、口は描かなくていいんですよね。」

 

宮本「描かなくていい、これは大きいです。あごは1ドットあればいいですし。
それに目は、縦に2ドットで描くとかわいいかなと(笑)。で、髪の毛を描ききれないので、帽子をかぶせたら帽子は2ドットで抑えられる。」

 

岩田「帽子も、ドット数を抑えるためにかぶせたんですか。」

 

宮本「それに、髪の毛にするとアニメーションにするのが難しいですしね。しかも、帽子をかぶせれば、すぐ下に目があっても大丈夫ですし。」

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こうしたゲーム上の仕様や都合によるデザインは近年の作品でも見られる。『ブレスオブザワイルド』では斧で切った木は瞬時に丸太や木材へと変わり、弓矢で仕留めたイノシシがポンっと漫画チックな肉に変わる。このような非現実的なゲームデザイン上の嘘をプレイヤーが違和感を覚えずに受け入れられるよう「嘘をつきやすい絵作り」として『ブレスオブザワイルド』のアートスタイルは作られている。『ティアーズオブザキングダム』でも過去作ではごく普通の多頭竜であったグリオークが3Dになったことでどこが弱点か視覚的にわかり易いよう単眼の多頭竜となったり、ボコブリンやモリブリンといった前作から続投している敵キャラがスクラビルドで武器に使えることがわかり易いよう角のデザインが変化している。シリーズ通しての主人公リンクのトレードマークである特徴的な長いもみあげも、元をたどればドット絵でエルフ耳のキャラクターの顔の輪郭をわかりやすくするための工夫だったのかもしれない。

 

 

スカイウォードソード』のストーリーでは古代文明が登場するが、これもWiiリモコンプラスを使った新しい遊びを考える中でビートルという虫型ロボットのようなアイテムが生まれ、それによって考えられた設定である。

岩田「ただ、「『ゼルダ』の世界に、なぜビートルのような文明的なカラクリが存在するのか?」とか考えだすと、ちょっと不思議な感じがしますよね。」

 

青沼「でも、このようなカラクリが出てきたからこそ、そこをふくらませていって、今作の古代文明みたいな設定が生まれてきたんです。」

 

小林「そうですね。」

 

青沼「なので『発達した古代文明があった』という設定は、じつは最初から考えていたわけではないんです。だってロケットパンチなんですから(笑)。」

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また、宮本茂ゼルダの伝説のストーリーに関して「作品間のつじつま合わせをしなくて良くなるとすごく楽になる」という主旨の発言もしている。

ゼルダにとってのストーリーというのはシリーズを何本もつくり続けていくと、つじつまが合わなくなりますよね。そのつじつま合わせのために、ものすごく無駄な時間を、じつは使ってるんです。なので、お客さんが『もうそんなことはどうでもいいから』と言ってくれたら、すごく楽になるんですけど(笑)。」

「毎回、舞台設定が違っても、いつもおなじみのキャラクターが出て役を演じる。まあ、『マリオ』がそういう構造になっているんですけど、『ゼルダの伝説』のほうも、リンクとガノンゼルダの関係性を保ちつつも、どんな舞台でもOKですよ、みたいになればすごく楽なんですよね。」

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30年以上もシリーズを続けてきた中で作品間のストーリーや設定に矛盾が出ないよう整合性を取るというのは、自由なゲーム作りにとっては一種の縛りプレイのようなものといわけだ。『ブレスオブザワイルド』『ティアーズオブザキングダム』でディレクターを担当した藤林秀麿も『スカイウォードソード』制作当時、矛盾との戦いに苦労したと語っている。*1

 

ゼルダの伝説 ハイラル百科』のシリーズ時系列を掲載してるページには「この年代記は、現時点で確認できる情報を紡いだにすぎず、不明瞭な部分も多くある。そして、ハイラルの歴史は時世や語り継ぐものによって変化し、これからも紡がれていく。大きく揺らぐことはないにしても、今後新たな伝説が生まれ、歴史が書き換えられていくかもしれない。」と書かれており、実際に2011年に発売された『ハイラル・ヒストリア ゼルダの伝説 大全』から公式の時系列が変化している。

2011年から2017年までの6年の間に公式の時系列において『ふしぎの木の実』と『夢をみる島』の位置が入れ替わっている。(『神々のトライフォース2』と『トライフォース3銃士』は2011年当時未発売)

このようにハイラルの歴史は作品と作っていく中で変化していることはスタッフインタビューでも語られており、*2*3その時々で作っている作品の都合に合わせてシリーズ全体のつながりを変化させてきたシリーズであることが伺える。今でこそ『スカイウォードソード』でその誕生秘話が語られているマスターソードも、『神々のトライフォース』の説明書では封印戦争の際に作られたものとされていた。*4

『ティアーズオブザキングダム』のガノンドロフトライフォースを求めない

従来、ガノンドロフトライフォースを手に入れハイラルを支配しようとしており、力のトライフォースにより魔獣ガノンへと姿を変えるキャラクターである。ところが『ティアーズオブザキングダム』のガノンドロフトライフォースではなく秘石を手にし魔王へとその姿を変える。

このキャラクター設定の変化もゲーム制作上の都合と考えれば納得がいく。触れた者の願いを叶える「黄金の聖三角」ことトライフォースをゲームのキーアイテムとして登場させてしまうとゲームの目的が「トライフォースを集める→ガノンドロフを倒す」という形になってしまい、必然的にトライフォース集めがストーリー進行上の必要条件となってしまう。これはストーリーダンジョンを無視してもラスボスを倒せるという『ブレスオブザワイルド』からの設計思想と相反する。そこでトライフォースの代わりに秘石の設定を生み出したのであろう。宮本茂が「過去作とのつじつま合わせをせずともマリオシリーズのようにリンクとガノンゼルダの関係性を保っていればOKとなればゲーム作りがとても楽になる」と語っていたように、今作では過去作の設定に囚われずにゲームの遊びを優先して、キャラクターや設定を作っていると考えられる。

ゼルダの当たり前を見直す」という方針を突き詰めた結果生まれた
トライフォースが一切関与してこないシリーズ初のガノンドロフ

結局『ティアーズオブザキングダム』の位置づけはどこなのか?

今作でトライフォースが出てこないように「『ティアーズオブザキングダム』の創作上の自由を優先した結果、過去作とのつながりは重視せずに作っている」というのが自分の結論だ。上でも述べてきたように過去作との整合性を考えた上で作品を作るのはゲーム制作において一つの制限であり縛りプレイみないなものだからだ。ゲーム制作上では『ブレスオブザワイルド』『ティアーズオブザキングダム』はシリーズのリブートに近い位置付けの作品であり、過去作とのつながりもはっきりさせない方針なのでは無いかと思う。

 

では、シリーズにおける『ティアーズオブザキングダム』の位置づけを考えるのは完全に無駄なのかというとそうも言い切れない。本作のディレクターである藤林秀麿はファミ通のインタビューにて作品の時系列について以下のように答えている。

『ブレス オブ ザ ワイルド』の後の話であることは間違いないです。そして、基本的に『ゼルダの伝説』シリーズは、破綻しないように物語と世界を考えています。現時点で言えるのは、その2点のみです。「破綻しない」という前提があれば、ファンの方々にも「ということは、それじゃあこういう可能性も?」といろいろ考えていただける余地があると思うんですよ。あくまで可能性として話すとすれば、ハイラル建国の話があってもその前に一度滅んだ歴史がある可能性もあります。「ここをこうしたらおもしろいんじゃない?」といった適当では作っていませんから、あえて語られていない部分も含めて、想像して楽しんでいただければと思います。

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「あくまで可能性として話すとすれば、ハイラル建国の話があってもその前に一度滅んだ歴史がある可能性もあります」と語っているように、ハイラル王国が一度滅んでおり新たに同じ名前の国が建国されたと考えればハイラル建国時期についての矛盾は解消される。

 

実際、ゼルダの伝説公式ポータルの時系列表には『トライフォース3銃士』と初代『ゼルダの伝説』の間に「ハイラル王国衰退」という出来事が存在する。

ハイラル王国衰退

ハイラル王国衰退」自体は『ハイラル・ヒストリア』等にも記述があり、初代ゼルダ姫の悲劇以降ハイラル王国は地方の小王国まで縮小し、これ以降を「衰退の時代」と呼ぶという。仮にこの時代に一度ハイラル王国が滅んでおり、空から降りてきたゾナウ族が新生ハイラル王国を建国したと考えれば強引ではあるが藤林氏の言うように破綻はない。同じようにこれ以前のどこかでガノンが一度完全に倒されており、『ティアーズオブザキングダム』に出てきたガノンドロフ時のオカリナガノンドロフが生まれ変わった存在であり、「封印戦争」も同じ名称の別の出来事と考えれば作中の矛盾点は概ね解消される。「新生ハイラル王国建国」も「ガノンドロフ転生」も時の勇者勝利ルートで起きているイベントではあるのでまったくの荒唐無稽とも言い切れない……かも知れない。

 

根拠が希薄な上に仮説に仮説を重ねているので、ここまでくるとなんでもありではあるが、藤林氏が「あえて語られていない部分も含めて、想像して楽しんでいただければと思います」と言っているように作品間の整合性を取る遊び、いわゆる「考察」のようなことをするのもゼルダの伝説の楽しみ方のひとつだ。『スカイウォードソード』作中のタイムトラベルによる第4のルートの発生や3つのルートが統合されたはるか未来の話など、自分なりの新解釈をあれこれ考えてみるのも面白いだろう。

 

 

*1:藤林「これまでのシリーズを振り返りながら、ひとつひとつをつきあわせていったんです。すると、たくさんの矛盾が出てくるんです」

岩田「『ゼルダの伝説』は初代から25年経ち、たくさんのシリーズを重ねたので、それぞれに物語や設定があって、それをもとに新しい設定づくりをしようとすると、どうしても矛盾との戦いになってしまうんですね」

社長が訊く『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』

*2:青沼「ハイラルの歴史というのは、時間とともに変化するんです。つぎの作品を作っていて、何かをやろうとしたときに、「ああ、こっちのほうが都合がいいな」と思ったらガチっとハマったりですとか、逆にヤバいと思ってハメ直したりですとか。じつはいままでにも、一度決まった歴史が、微妙に変わったことは何度かありますから(笑)」

藤林「最近社内で流行している言葉は、“新解釈”です(笑)。厳密に言うと、変わったわけではなくて、新しい資料や新事実が見つかったということなんです」

青沼「歴史の教科書も、細かい部分がどんどん変わっていますよね。だから今回、新たな古文書を見つけたような状況なんですよ(笑)」

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』祠の解法は3つ以上!? DLC&新作も聞く、アタリマエを超えた驚異の作品作りに迫る開発者インタビュー【後編】 - ファミ通.com

*3:ティアーズオブザキングダム発売前後の発言としてはオランダメディアRTL Nieuwsのインタビューにて、青沼英二が「かつて書籍で解釈の余地のない時系列を公表したことを後悔しているか?」と聞かれ「時系列を決めるときゼルダチーム内にはまったく違うイメージを持っている人も存在しており、その意味ではあの時系列も不完全なものである」と答えている。Interview met Zelda-makers: 'Scenario geïnspireerd door vaderschap' | RTL Nieuws(私はオランダ語は全然わからないのでもしかしたら誤読があるかもしれません。もしオランダ語がわかる人がこれを読んでいて間違ってるよ!ということがあれば指摘してくれると非常に助かります。)

*4:「そこで、ハイラル人は神のお告げで、トライフォースをかどわかす魔を撃退する、退魔の剣を造りました。それはマスターソードといわれ、真の勇者のみが使う事ができるといわれていました。賢者達はまず、マスターソードとそれを扱う勇者の存在を捜しました。しかし事態は急を要してガノンの邪気は王宮に迫ってきました。賢者達と騎士団は持てる力を最大にして、悪しき者との壮絶な戦いを繰り広げました。猛攻に身をていして盾となった騎士団は、残念ながら力尽き、命を落としてしまいましたが、賢者達の封印は完了しました。ハイラルトライフォースの力を悪用するガノンから、平和を守り勝利を喜びました。多くの犠牲をはらったこの戦いは、「封印戦争」として後世に語り継がれています。」https://www.nintendo.co.jp/clvs/manuals/ja/pdf/CLV-P-VAAEJ.pdf

ASUS T100TAにChromeOS Flexを入れてみたのでインストール時のトラブルとその対処法のメモ書き

スマホの買い替えに伴い古いデータを整理していたら部屋の隅でホコリを被っていたASUSのT100TA-WHITE-Sの存在と今年6月にGoogleがChromeOS Flexの安定版をリリースいていたのを思い出したので、T100TAにChromeOS Flexを入れてChromebook化してみました。その際のちょっとしたトラブルと対処法に関するメモ書きです。

 

 

T100TAはASUSが10年近く前に発売していた脱着型のキーボードドッグにHDDを搭載しているのが特徴の2in1タブレットです。OSはWin8.1 32bit、CPUはIntel Atom Z3775、メモリは2GBと当時としても非力でしたが艦これ用のタブレットとして一部で人気だったみたいです。

対してChromeOS Flexの最小要件は

なので満たしていませんが、ネット上には入れてみたという人が複数おりどうせ使っていないのでまあ駄目元でやっていきます。

 

USBフラッシュメモリでインストールメディアを作り、キーボード側のUSBポートに差してインストールしていきます。(このあたりの細かいことは他所の記事を参考してください。)

ascii.jp

無事にインストール完了したものの、ここでトラブル発生。再起動するとOSがWindowsに戻ったり「preparing automatic repair」と自動修復画面が出てきたりしてしまいました。調べてみるとどうにもChrome OS FlexがCドライブ上のWindowsに置き換わる形ではなく、Dドライブつまりキーボードドックの中のHDD上に存在する形になってしまっているようです。

 

で、検索するとRedditで解決策を見つけました。

www.reddit.com

「キーボードを開いてHDDを取り外して強制的にメインステージにインストールしろ!!!」

 

というわけでキーボードドックを分解していきます。キーボードドックの裏に見えるネジ4つとヒンジ側のゴム足の後ろに隠してあるネジ2本を外せば簡単に開けられ、そのままHDDにアクセスできます。記事にするつもりがなかったので写真等ありませんがT100TAなんてニッチなPCを買っていてその上Chromebook化をしようとしてる人ならそんなには難しくないと思います。もし分からなければ「T100TA HDD換装」等で検索すればいくらでもレポが出てきます。

 

あとはHDDを外して組み直し再度インストールを行います。今度はインストールが無事に終わり、本体スピーカーから音が出ないのと画面の明るさが最大から変えられず目が潰れること以外はなにも問題なくインストール出来ました。……この辺は用途によってはかなり致命的な気がしますがサポート終了したWin8.1を入れてるよりは良いと思うことにします。

ついでに取り外したHDDはHDDケースに入れて外付けHDDとして使っていくことにしました。(正直本体よりこちらの方が有用そう)

 

 

『DEATH STRANDING』ディレクターズカット版での「アセクシュアルな世界」加筆修正に関して

先月やっと重い腰を上げPS5を購入し、DEATH STRANDINGのディレクターズカット版をプレイしました。そこで一箇所気になった点があったので書き残しておきます。他に言及している人もあまり居ないようなので

 

 

DEATH STRANDINGのゲーム内テキストのひとつに『アセクシュアルな世界』というものがあります。

PS4版『DEATH STRANDING』「アセクシュアルな世界」

デスストランディングが起きる前から、人は触れ合うことを恐れはじめていたのかもしれない。
当時の記録で見つけた話だ。
若い世代を中心に、"セックスのない生活”を求める傾向が強くなっていた。他人に対して性的欲求や愛情を抱けないアセクシュアル (無性愛) と呼ばれる人間が増えて いた。生殖行為そのものをしなくなり、性を楽しむこともしなくなってきたのだ。だが、すべての人間がそうだったわけではない。親密な関係になる相手にだけ、ごくまれに性的欲望を感じるデミセクシュアル (半性愛) 性的な欲求はないが、あらゆる人に恋愛感情を抱くパンロマンティック (全愛情) など、新たな性的アイデンティティをもつ人間が登場したという。
デスストランディングがその傾向に拍車をかけた。BTと接触し、飲み込まれると対消滅を起こす。その事実が、他者と接し、深い関係を結ぶことを恐れさせたんだ。肉体的な要因による不妊のせいではなく、出生率は激減した。それと並行して、性犯罪や性暴力も減少した。人が接触しなければ、誕生という喜びも、暴力という悲劇も起こらない。少なくともこの大陸の多くの人が、アセクシュアルとなってしまったんだ。

 

この文章は問題点だらけです。まず、アセクシュアルとは他者に対して性的に惹かれないセクシュアリティのことですが、このテキストでは「他人に対して性的欲求や愛情を抱けない」となぜか”愛情”というワードが入った上に”抱けない”と否定的なニュアンスで説明がなされています。 (もし、何が問題かピンと来ないのであれば同性愛者に関して「異性に対して性的欲求や愛情を抱けない人間」と書かれた文章があったらどうか想像してみてください。) また性的指向の用語を出しつつ「"セックスのない生活”を求める傾向が強くなっていた」とまるでライフスタイルか何かのように書き、そうした性的アイデンティティをもつ人間が増えたせいで出生率が激減したとしているのは明確に差別的です。

 

こうした指摘は発売当初からなされており、海外メディアPolygonはコジマプロダクションに問い合わせを行ったが回答はなかったと当時の記事の中で書いています。

www.polygon.com

 

このような問題のあった「アセクシュアルな世界」ですが、PS5のディレクターズカット版では以下の文章が追加されていました。

PS5『DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT』の「アセクシュアルな世界」

要再検証事項:
このドキュメントは、根拠が薄弱で差別的な理論に依拠している。これを読む際には下記の注意が必要である。
定説では、多様なセクシュアリティが社会的に認識されるようになり、自分が異性愛ではないということを自覚する人が増えてきたとされている。
歴史を振り返ると、異性愛者以外の人々が社会から差別・迫害を受けてきたことは明白であり、生き残るために自分のセクシュアリティを隠すに至ったとされる。デスストランディング前後の出産率の変化、性生活の変化には、様々な要因がある、というのが現在では一般的な見解である。
なお、現在も研究は進んでいる。

 

ディレクターズカット版発売に際して指摘を受けての訂正があった事自体は喜ばしいと思いますし、「差別的な理論に依拠している」とはっきり書かれたことは非常に大きいと思います。

しかしながら、PS4版DEATH STRANDINGに関しては2023年5月8日(Game Version 1.13)時点で修正等は特になく、オリジナルの差別的なテキストがそのまま放置された状態です。差別的な内容のテキストが良くなかったということであれば、PS5版での追加要素としてではなく、指摘があった時点で声明を出し会社のスタンスをはっきりさせた上でアップデートにてテキストの修正をするなどの対応を取るべきだったのではないかと思います。