MGSV:TPPと資源のお話

 MGSV:TPPは資源をめぐる話だ。まず、白鯨というモチーフからして鯨油というエネルギー資源の話だし、マザーベースの運営システムにも資源管理の要素が組み込まれている。そもそも今作のマザーベース自体が鉱物資源会社の建てた試掘プラントを改造したものであって、その外見は石油掘削リグそのものだ。エネルギー資源のために作られた洋上の巨大居住空間という意味で石油掘削リグは現代の捕鯨船と言えるかもしれない。

 FOBのプレイヤー間でお互いのスタッフといった人的資源、コンテナに入った鉱物や燃料、生物資源の奪い合いを行わせるというゲームシステムもあからさまに資源をめぐる話だ。資源は争いの元にもなり、資源を牛耳るものは世界の覇権を握ることになる。エネルギー資源としての核燃料もそうだし、声帯虫やメタリックアーキアだって立派な生物資源だ。現実の世界でだって海底資源をめぐる領土争いは今も絶えないし、石油資源をめぐる大きな戦争もあった。兵器を作るのにだって鉱物資源は必須だ。戦車や飛行機なんて見ての通り鉄の塊だし、ミサイルの誘導・制御用のアクチュエータにはネオジムなんかのレアアースが磁性材料として使われている。ハイテク兵器の小型化高性能化においてレアアースは欠かせない存在となっている。今現在、世界中のレアアース総需要の内7%近くが軍需関連だという。(レアアース泥の本に書いてあった)

 MGSV:TPPのゲーム内には鉱山が存在し、それに関して作中のカセットテープではこんな説明がされる。

紛争の資金となっているのは現地で採掘される金、レアメタル、ダイアモンド……。両者はそこから生まれた金で武器を揃え石油を買いそしてPFを雇っている。(中略)祖国の大地を削って採掘された”商品”は欧米企業に安く買い取られ、内戦はその売上で運営される。わかるか?ひとつの国の国民が他国によってふたつの民族に切り分けられ、それぞれの民族は自国の大地を掘り起こし、それを金に変えて戦争を運用している。他国が作った戦争という日常がこの国の資源を吸い取っている

 地下資源が紛争の資金となっているのは何もゲームの中のだけの話でも過去のことでもない。MGSVの舞台のひとつである旧ザイール、現コンゴ民主共和国では今も鉱物資源が紛争の資金源となっている。採掘されたコルタンやタンタルなどのレアメタルスマートフォンを始めとする電子機器に使われ、その金は現地武装勢力の資金源となる。先のカセットテープの説明は次のよう続く。

PFも同じだPFはその金に群がり戦争を転がしてる。……俺達も同じだ。その大地の折り重なる報復の歴史の下流にいま俺達は立っている

 今あなたの眼の前にあるPCやスマートフォンの中にもアフリカの紛争地帯で採掘された鉱物資源が入っているかもしれない。MGSVをプレイしたゲーム機だって元をたどれば声変わり前の子どもの強制的労働によって鉱山で生産された”商品”だったかもしれない。身の回りに溢れている電子機器もそれを動かす電気も誰かからの搾取によって成り立っている豊かさだ。「銃を持った傭兵もDUALSHOCK4を握ったお前も本質的には同じなのではないか?」このカセットテープの話は我々にそう問いかけているように思えてならない。

 コンゴ紛争はその規模の大きさにもかかわらず国内のメディアで取り上げられることは極めて少ない。ある種タブー視されていると言ってもいい。思えばMGSV製作時に小島秀夫監督が言っていた「タブーに挑む」という言葉はこのことだったのではないか?「お前はゲームをプレイすることで戦争の片棒を担いでいる」そう直接プレイヤーに突きつることこそが最大のタブーだったのではないか?そんなふうに思えてならない。