「『メタルギアソリッド5』のスネークが無口なのはキーファー・サザーランドのギャラが高かったから」は事実か?

METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAINのスネークが無口なのはキーファー・サザーランドのギャラが高いから」というのは本当だろうか?

結論から言うとおそらくNOだ。少なくとも自分はそういう立場であり、以下にその理由を述べる。
まず、「おそらく」と言ったのはこの話が全くの根拠不在のデマとは言い切れないからだ。何を隠そうMGSV:TPP発売直後に公開されたシネマトゥデイ万城目学のプレイレポにはこのようなことが書いてある。

 

Q:主人公スネークの変化はいかがでしたか?

本当に序盤をプレイしただけなので、まだ全然しゃべらないんですよ。小島さんにあんまりスネークしゃべらないですねって聞いたら、(英語版声優の)キーファー(・サザーランド)にお金掛かるから、拘束時間少なめで済むようにしてんねんって、身もふたもないことをおっしゃられていました。本当かなのか、冗談なのか、わからないですけど(笑)。実際には、「MGSV:TPP」はリニアなゲームではない、オープンワールド=自由潜入なので、感情はあるものの、プレーヤーに寄り添いプレーヤー自身が感情移入をしやすいように、あえてしゃべらないんです。その分、周囲のキャラクターたちが話し、物語は進行するんだそうです。(原文ママ)

メタルギア」シリーズ小島秀夫監督をベストセラー作家が分析!万城目学「MGSV:TPP」プレイレポート! http://www.cinematoday.jp/page/A0004677

 


「ヴェノム・スネークが無口なのはキーファー・サザーランドのギャラが高いから」という話の大本はこの記事と見て間違いないだろう。問題はこれが小島秀夫本人のインタビューやTwitter、ブログ、Podcastなどによる直接的な発言ではなく、あくまでも万城目学氏との非公開・プライベートでのやりとりであり、万城目学本人も「本当なのか、冗談なのか、わからないですけど(笑)。」と発言しているということだ。ファンなら知っての通り小島監督は非常にジョークが好きだ。口を開いている間は常にジョークが垂れ流しと言っても良い。(多少言い過ぎかも知れない)この発言もMGS2の「雷電を出したのは女子中学生に『おっさんばっかりのゲームは買わない』と言われたから」*1と同じようにあまり真に受けない方が良いのではないだろうか。少なくともこれだけがヴェノム・スネークが無口である理由ではないはずだ。


では実際、小島監督本人はキーファー・サザーランド起用に際してなんと発言していたかを確認しよう。

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「PRE-E3 2013『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAINスペシャルインタビュー」より



今回の『MGS5』では、これまでとはまた違う、「復讐」や「RACE(人種)」という重いテーマを扱っていて、作品のトーンも低く抑えています。そのため、言葉だけではなく、微妙な表情や声の質でキャラクターを見せるという、より高度な表現を求めていました。すると制作のプロセスも変わり、ハリウッドで収録するフェイシャル・キャプチャーがキャプチャーの基礎になります。しかも、今回は1984年が舞台で、スネークは49歳。表情や声に49歳の渋みを出せる俳優を探していたところ、ハリウッドの友人である、アヴィ・アラッドさんというプロデューサーが、キーファー・サザーランドさんを紹介して下さったんです。(中略)今までのメタルギアでは「カズ、大丈夫か?」というように、スネークの気持ちをセリフで表していたんですが、今回は「カズ?」としか言わないんです。その一言に込めた、声のトーンや表情で気持ちを伝えようとしたのですが、キーファーのおかげで非常にうまく表現でき、とても満足しています。すごく良いものになると思います。

 

つまり、MGSVでは従来通りの直接的な説明セリフではなく声のトーンや微妙な表情の演技でキャラクターの心境を語るというアプローチが取られ、それにふさわしい演技の出来るスネーク役にぴったりな俳優としてキーファー・サザーランドが起用されたというのが実態に近いだろう。もちろん、キーファー・サザーランドの拘束時間を短くするという意図もあった可能性はあるが、それだけがメインではないはずだ。「声(VOICE)」は本作のテーマのひとつでもある。キーファー・サザーランドを起用したから無口になったのではなく、直接的な「言葉」に頼らず「声」で演技ができる俳優としてキーファー・サザーランドが起用されたのだ。

以上よりヴェノム・スネークの口数が少ないのは表現の上で明確な意図があってのことであり、「キーファー・サザーランドのギャラが高かったから無口にした」「キャスティングで予算を無駄遣いした結果無口になった」というのは事実に反する言説であろう。*2

 

 

MGSVの北米版。英語音声なのでキーファー・サザーランドの演技が楽しめる。

 

 

『DEATH STRANDING』日本版は英語音声も収録されているみたいです。

*1:実際にそのような発言はあるがあくまでも「スネークでは語れない話なので」というのが大きな理由だろう HIDEO KOJIMA in MGS3 Private Disc - VTS 01 3 - YouTube

*2:直接的なセリフではなく俳優の演技でキャラクターの心境を語るというアプローチは小島秀夫監督の次回作『DEATH STRANDING』のトレーラーでもはっきりと見て取れる。1st2ndトレーラー共に登場人物にセリフは無く、3rdトレーラーも最低限のセリフのみで構成され、表情だけで非常に豊かな演技を見せている。

『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』E3 2016ティザートレーラー - YouTube