いま現在、Twitter上でこのようなツイートが拡散されている。
「ラスアスの全ての元凶である寄生菌って、同じNaughty Dog作品『アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝』で主人公ネイトが探し当てた"宇宙由来のウイルス"だったって知ってました?」
上記のツイートとそれに続くリプライの内容を整理するとこうだ。
- アンチャーテッドとラストオブアスの世界は繋がっており、アンチャーテッドシリーズ一作目『エルドラドの秘宝』に出てきたウイルスがラストオブアスにおける寄生菌の正体でありパンデミックの原因である
- アンチャーテッド3冒頭のパブに置いてある新聞にはラストオブアスの内容を示唆する記事がある
- アンチャーテッドとラストオブアスの世界が繋がっている証拠としてアンチャーテッド3冒頭に登場したパブがラストオブアスにも登場している
結論から言うとこれは公式設定でもなんでもなく、一部のファンの間で囁かれている単なる仮説にすぎない。アンチャーテッド3のパブも単なるイースターエッグにすぎず、両作品の設定上の繋がりを示すものではない。公式設定でアンチャーテッドとラストオブアスが同一世界観ということもなければ、ラストオブアスの寄生菌の正体が”宇宙由来のウイルス”だなんてことも当然ながらない。
目次
- パブの新聞記事は単なるスタジオの次回作に関するイースターエッグであり、クリエイティブディレクターは「削除しておくべきだった」と発言している
- アンチャーテッドとラストオブアスが同一の世界が舞台だった場合、設定に明らかな矛盾が発生する
- アンチャーテッドとラストオブアスにはそれぞれの作品に関するイースターエッグが存在するが、それらはむしろ両作品が同一の世界ではないことを示唆している
- 本日のまとめ
パブの新聞記事は単なるスタジオの次回作に関するイースターエッグであり、クリエイティブディレクターは「削除しておくべきだった」と発言している
実はこの話、過去にNaughty Dogの開発者がWil Wheaton氏のインタビューに答える形で言及をしている。
「ファンの間のうわさで私も面白いと思ったのがどちらも同じ世界が舞台という説です。大惨事の原因は『アンチャーテッド』で発生し、ネイト達は死んでいる。それについて何か話せることは?」という質問に対して、共同リード・ゲームデザイナーのAnthony NewmanとクリエイティブディレクターのNeil Druckmannの両氏はこう答えている。
Anthony Newman「『アンチャーテッド3』でパブのステージをデザインしました。ニールに許可を得て、新聞に『ラスト・オブ・アス』のヒントを隠してすっかり忘れてたんです」
Neil Druckmann「『3』の発売前に『ラスト・オブ・アス』を発表するはずが『3』の発売後に発表することに。新聞もそのまま忘れていて、ヒントが入ったまま『ラスト・オブ・アス』発表の1周間前、誰かが新聞に気づいてね。会議中にメールが来たんです。”バレた”ってね。エヴァン*1にも見せてあの時はあせりました。」
また、ラストオブアスシリーズクリエイティブディレクターのNeil Druckmannは海外メディアKotakuのインタビューでアンチャーテッド3にラストオブアスを示唆する新聞を忍び込ませた意図についても語っている。
Druckmann: Yeah. So we said, 'Okay, it would be cool. The game will be announced and then Uncharted 3 will come out afterwards. So the designer [of the November 2011-scheduled Uncharted 3] came up to us and said, 'Do you mind if I put in this Easter Egg? So after somebody played Uncharted 3, they'll be like, oh, they're talking about The Last of Us.' 'Cool.'
つまりラストオブアスの発表後にアンチャーテッド3が発売され、プレイした人がゲーム中にNaughty Dogの次回作であるラストオブアスのイースターエッグを発見し、話題になるのを狙っていたわけだ。しかしながらラストオブアスの発表が延期となり、イースターエッグの存在は忘れられることとなる。2011年当時、ラストオブアスは制作スタジオ等の詳細を伏せたままタイトルと謎のティザー映像を公開するバイラルマーケティング行っていたが、このイースターエッグの存在により正式発表の前にNaughty Dogの作品であることがバレてしまい、バイラルマーケティングが台無しになってしまった。*2このことに関してNeil Druckmannは上記のKotakuのインタビューにおいて「(イースターエッグを)削除しておくべきだった」と語っている。
アンチャーテッドとラストオブアスが同一の世界が舞台だった場合、設定に明らかな矛盾が発生する
次に 「アンチャーテッドとラストオブアスの世界が繋がっている証拠としてアンチャーテッド3冒頭に登場したパブがラストオブアスにも登場している」というのはどうだろうか。確かにラストオブアスにはアンチャーテッド3に出てくるのと同じパブが存在する。それに関しても上記のインタビュー動画で言及されている。
Anthony Newman「でも実際『ラスト・オブ・アス』でもあのパブを使っているんですよ。裏から入るし、暗闇で分かりにくいですが。廃墟になってますしね」
Wil Wheaton「ということは?」
Anthony Newman「ネタは本当」
Wil Wheaton「本当ですか?」
Anthony Newman「ええ」
Neil Druckmann「『アンチャーテッド4』は妄想ですよ。皆死んでる」
Anthony Newman「その通り!」
Wil Wheaton「これは炎上しますね」
実際に動画を見てもらえればわかるように冗談として「ネタは本当」と発言している。重要なのはその後の「『アンチャーテッド4』は妄想ですよ。皆死んでる」という部分だ。というのも、もしもアンチャーテッドシリーズとラストオブアスが同じ世界の話であれば、Neil Druckmannが言うようにアンチャーテッド4の物語はありえないのだ。
ラストオブアス作中におけるアウトブレイク発生の日付は2013年9月26日である。一方、アンチャーテッド4でネイトたちが持っているスマートフォンは2015年発売のXperia Z5であり、同作の時代設定が2015年以降であることがわかる。*3
もしも、ラストオブアスとアンチャーテッドが同じ世界が舞台なのであればアンチャーテッド4時点でアウトブレイク後の世界のはずである。そうなれば主人公のネイトもトレジャーハントどころではないだろう。
アンチャーテッドとラストオブアスにはそれぞれの作品に関するイースターエッグが存在するが、それらはむしろ両作品が同一の世界ではないことを示唆している
アンチャーテッド3のパブ以外にもアンチャーテッドとラストオブアスの両シリーズには数多くのイースターエッグが含まれている。中でもラストオブアス2には特に直接的な形でのアンチャーテッドシリーズに関するイースターエッグが存在する。作中にアンチャーテッド2のゲームソフトそのものが出てくるのだ。つまりはラストオブアスの作中世界においてアンチャーテッドシリーズは同一の世界観の話ではなく、ゲームソフトとして存在していることになる。
さらに良く見るとアンチャーテッド2の下にはアンチャーテッド1が、横には同じくNaughty Dog作品である『Jak and Daxter Collection』が見える。この世界でもNaughty Dogはゲーム開発に勤しんでいたようだ。
また、アンチャーテッドシリーズ4作目『海賊王と最後の秘宝』にもラストオブアスに関する同じようなイースターエッグが存在する。物語のエピローグにてラストオブアスのポスターが部屋に貼ってあるのだ。
この他にもラストオブアス2にはアンチャーテッドシリーズにおいて重要なアイテムとなるフランシスコ・ドレイク卿の指輪が収集アイテムとして登場するなど数多くのNaughty Dog作品に関するイースターエッグが存在している。ゲームの世界観の設定に関わるものではなく、単なる開発者のファンに向けたお遊びではあるが興味があれば調べてみるのも良いだろう。
本日のまとめ
- 「アンチャーテッドとラストオブアスが同じ世界の話である」というファンの噂に対して開発者が「本当だ」と発言した事実はあるが前後の文脈を踏まえると明らかなジョークである。
- 上記の噂の発端となったイースターエッグに関してクリエイティブディレクターのNeil Druckmannは「削除しておくべきだった」と語っている。
- 仮に両作品が同一の世界の話だとすると時代設定に明らかな矛盾が生じる。
- ラストオブアス2作中にはアンチャーテッドのゲームソフトが存在しており、ラストオブアスの世界においてアンチャーテッドシリーズは同一の世界の話ではなく、ゲームソフトとして存在している。
好きな作品の描写から「考察」と称して妄想を広げることが楽しいのは理解しますし、その楽しさ自体を否定する気は微塵もありませんが、その個人の妄想を「~だったって知ってました?」とさも公式設定かのごとく語り誤解を広めるのは明確に悪質で有害なデマだと私は思います。大体、アンチャーテッド4の美しいエピローグの未来がラストオブアスの暴力が支配する終末世界であると聞いて「2つの作品は繋がっていたんだ!嬉しい!」となるファンがどれだけ居るのか甚だ疑問ですし、作品の結末を台無しにするような話が広がってある程度信じられていることが残念でなりません。そもそもウイルスと菌は全くの別物ですし。このようなデマは一度広がると訂正が難しくなることも多く、本当にいい加減なことは言わないで欲しいなぁ……と思います。