『DEATH STRANDING 2』発売によせて。──BRIDGESの東部遠征とマニフェスト・デスティニー、フェルディナンド・マゼラン、アメリカの帝国主義

いよいよ6月26日『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』が発売される。

小島秀夫監督は以前より発売前にトレーラー等の事前情報についてファンの間であれこれ考える、所謂「考察」のようなことに関して積極的行って欲しいと度々語っている。そこで本エントリでは『DEATH STRANDING 2』について好き放題書き散らして行くことにする。

www.youtube.com

BRIDGESの東部遠征とマニフェスト・デスティニー

前作『DEATH STRANDING』は謎の現象デスストランディングによって分断された北米大陸を東から西へと繋いでいく物語だった。この東から西へと繋いでいくというゲーム進行はアメリカの西部開拓時代を意識してのものであった。*1

BRIDGESの東部遠征について説明するサマンサ・アメリカ・ストランド

西部開拓時代アメリカは独立当初からの領土であった大西洋岸から太平洋岸まで徐々に領土を広げていった。この西漸運動の過程で先住民であったネイティブアメリカンは後からやってきた白人によって住む場所を追われ虐殺されたが、「文明化」の名の下アメリカは侵略行為を正当化していった。神より与えられたこの大陸のすべてを所有し、文明化を推し進めることは我々の「マニフェスト・デスティニー(明白な使命)」なのだと。

ジョン・ガスト『アメリカの進歩』1872年
アメリカの擬人化である女性コロンビアが電信線を持ち、
北米大陸を東から西へと進んでいく様子が描かれている。

アメリカが太平洋まで達し、未開拓地が消滅するとアメリカはスペインやメキシコと戦争を行い領土拡大し、大洋を超え植民地を獲得していく。マニフェスト・デスティニーはアメリカの帝国主義的領土拡大を正当化する標語・思想となっていく。*2

DS2ではアメリカの帝国主義が描かれる?

『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』

一方、『DEATH STRANDING2』も北米大陸を出てカイラル通信を繋げていく話となる。物語はメキシコから始まり、後にオーストラリア大陸へと舞台を移すという。サムが所属することになるDRAWBRIDGE(跳ね橋部隊)の移動基地DHVマゼラン号はおそらく史上初の世界周航で知られる航海者フェルディナンド・マゼランが船名の由来であろう。

natgeo.nikkeibp.co.jp

彼の率いた船団は史上初の世界一周航海を達成するもマゼラン自身はその瞬間を目にすることはなかった。航海の途中、フィリピンのマクタン島で地元住民へキリスト教への改宗を要求、戦闘となりマゼランは戦死している。マゼラン海峡やマゼランペンギン、マゼラン星雲などの名前の由来にもなっているが近年では偉大な航海者、探検家ではなく「征服者」であるとする向きもある。一作目のアメリゴ・ヴェスプッチに続いて小島監督らしいチョイスといえよう。

また、今回新たに登場する組織APAC(Automated Public Assistance Company)のロゴにも帝国主義・植民地主義のモチーフが見え隠れする。

『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』
サムの背中の荷物にAPACのロゴが確認できる。

というのもこのロゴマークはスパイスの交易や植民地経営を行っていたオランダ東インド会社のものにそっくりなのだ。

左がAPAC、右がオランダ東インド会社のロゴ。

いずれにせよ『DEATH STRANDING 2』では帝国主義について語られるのではないかと思われる。

 

 

「我々は繋ぐべきだったのか?」

『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』

『DEATH STRANDING 2』では「我々は繋ぐべきだったのか?」がテーマとなるという。インターネットは人と人を繋げるが、それは時に社会の分断をももたらす。エコーチェンバーや陰謀論、アメリカ議会議事堂襲撃事件も記憶に新しい。前作の組織があちらとこちらを繋げる架け橋「BRIDGES」であったのに対して、『DEATH STRANDING 2』では必要に応じて橋を上げ、繋がりを断つことができる「DRAWBRIDGE(跳ね橋)」というのも象徴的だ。

このテーマに関して小島秀夫監督はインタビューで以下のように語っている。

ヒントとしては、前作のロゴは下に向かって糸が垂れていて、これは「繋がりましょう」ということがテーマだったのに対して、『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』のロゴでは上から糸が垂れてきていて、映画『ゴッドファーザー』のロゴのようになっています。ここまで言えばわかるかもしれません。繋がるということをよくよく考えたらどうなのか……。ここから先は発売後に遊んでみてください。

blog.ja.playstation.com

左:『DEATH STRANDING 2』のロゴ
右:映画『ゴッドファーザー』のロゴ

『DEATH STRANDING 2』のトレーラーでは登場人物の頭の上に伸びるピアノ線のようなものやドールマンなど操り人形に関するモチーフ頻出している。繋がった結果、誰かに煽動されたり、操られたりするというインターネットの負の側面について描くストーリーになるのかも知れない。

シートベルトをつけるためバンザイするドールマン。(かわいい)

 

渚にて

『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』

DEATH STRANDING 2の副題「ON THE BEACH」は核戦争後の終わりゆく世界で生きる人々を描いたネヴィル・シュートの小説及びそれを原作とした映画『渚にて』の原題だ。終末の世界、潜水艦、オーストラリアが舞台など『DEATH STRANDING 2』と『渚にて』には共通する要素が見て取れる。

『渚にて』では、人々は最終的に迫りくる放射能に苦しむ未来よりも自宅での安楽死を選んでいく。生存者を探しに出たアメリカ最後の原子力潜水艦も最終的に自沈する。「いずれ人類は絶滅してしまうのだからラストストランディングを熾して今すぐに終わらせてしまおう」という前作『DEATH STRANDING』で否定された考えに近い結末の作品と言えるだろう。

『DEATH STRANDING』

かといって『DEATH STRANDING 2』がそのような暗い結末になるかといえばそうとも言い切れないように思う。前作で繰り返し引用された安部公房『なわ』は縄で父親を絞め殺す話である。言わば「なわ」を「棒」として使う話であり、前作で象徴的に引用された部分は作品の内容と正反対のシニカルな落ちとなっている。対してデススト1では銃という「棒」を「なわ」として使う話であった。デススト2も『渚にて』をなぞりつつ希望のある結末になるのではないか。

『DEATH STRANDING』

 

 

 
 

デジタルデラックスエディション購入者はプレイできるまであと1時間を切った。

ここまで散々書き散らしたがこうやって好き勝手言っていられるものゲーム発売までである。実際にゲームをプレイしてみたら恥ずかしくなるくらいてんで見当違いなことを書いているかも知れない。

いずれにせよ待ちに待ったA HIDEO KOJIMA GAMEの発売である。24日以降はしばらくインターネットとの繋がりを断ち、ゲームを楽しみたいと思う。

*1:「前作でアメリカ大陸を東から西へ繋いでいったのは、開拓時代になぞらえたものです。」『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』小島監督インタビュー! 現代の世界情勢を受けて変化した作品テーマ“繋がり” – PlayStation.Blog 日本語

*2:余談であるが今年1月の大統領就任演説の中でドナルド・トランプは「宇宙に対するマニフェスト・デスティニーを追求し、アメリカ人宇宙飛行士を火星へと送り、火星に星条旗を立てる」と宣言を行っている。"And we will pursue our manifest destiny into the stars, launching American astronauts to plant the Stars and Stripes on the planet Mars. "The Inaugural Address – The White House