『ゼルダの伝説 夢をみる島』 ──グラフィックとゲームデザインとストーリーの話──

※『ゼルダの伝説 夢をみる島』のストーリーの根幹に関わるネタバレを含みます。 

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ゼルダの伝説 夢をみる島』(2019)より

 

ゼルダの伝説シリーズは作品ごとに大きくグラフィックの方向性を変えてきたシリーズだ。特に2002年発売の『ゼルダの伝説 風のタクト』はそれまでの作品と大きく方向性を変えたことで発表当時ファンの間で大きな賛否があった。*1


ゼルダの伝説 風のタクト HD Nintendo Direct@E3 2013 出展映像

 

ゼルダの伝説 風のタクト』はタイトルの通り「風」がゲームの大きな要素のひとつとなっているゲームだ。風を操ることのできる不思議なタクトを使い、船の帆に風を受け大海原を進んだり、デクの葉という大きな葉っぱを広げて風を受けて滑空したり、風をうまく利用することがゲームの進行や謎解きにおいて重要な鍵になっている。ゲームデザインに「風」という要素が絡んでくるので必然的に風向きを視覚的に表現する必要性が出てくる。そこでこのゲームはアニメ調のグラフィックによって「風」を空中を流れていく白い線として直接表現している。

 

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ゼルダの伝説 風のタクトHD』より

また、大きな葉っぱで人間が空を飛ぶという現実離れした描写もアニメ調のグラフィックでなら違和感なくプレイヤーに受け入れさせることができる。(フォトリアルなゲームで上の画像と同じことをしているのを想像してみて欲しい)「触れるアニメ」というコンセプトで開発されたこのゲームは今ではファンからの強い人気を得ており、WiiUでもリメイクされている。

 

 

同じようなグラフィックとゲームデザインの話は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』にも言える。


ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド 1st トレーラー

 

ブレス オブ ザ ワイルドでは斧で切った木は瞬時に丸太や木材へと変わり、弓矢で仕留めたイノシシがポンっと漫画チックな肉に変わる。壁はどこでも自由に登れるし、食材をそのまま鍋に投げ込むと盛りつけされた料理が出てきたりする。このような非現実的なゲームデザイン上の嘘をプレイヤーが違和感を覚えずに受け入れられるよう「嘘をつきやすい絵作り」としてブレス オブ ザ ワイルドのアートは設計されているのだ。

 

 

最新作Nintendo Switch版の『ゼルダの伝説 夢をみる島』では「触れるアニメ」ならぬ「動かせるジオラマ」とでもいうようなグラフィックで物語の舞台となるコホリント島が描かれる。キャラクターのモデリングもさることながら画面の上下を帯状にぼかすことで被写界深度の浅いミニチュア撮影風の暖かい雰囲気のグラフィックに仕上がっている。

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ゼルダの伝説 夢をみる島』(2019)より

オリジナルのゲームボーイ版の手の中の小さな四角い画面に広がる2Dのドットで描かれた世界をジオラマを覗き込むような世界としてリメイクしたのだ。そして、このジオラマ風のグラフィックという手法は『夢をみる島』の物語とも密接に関わってくる。ストーリー中盤以降、ゲームの舞台であるコホリント島が「かぜのさかな」の見ている夢であることが明かされるのだ。

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ゼルダの伝説 夢をみる島』(2019)より

つまり、このゲームはゲーム中の世界すべてが作り物であると語られるゲームをジオラマという作り物風の表現方法でリメイクするということを行いっている。ゲーム本編が終始ジオラマ風のグラフィックであるのに対し、リンクがコホリント島に流れ着くまでを描いたOPと島を出たあとを描いたEDはアニメーションで描かれていることも島が作り物の世界であることを強調する構造になっている。

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ゼルダの伝説 夢をみる島』(2019年)より

ミニチュアのように描かれるコホリント島は住人や動物、敵キャラ、石、木、建物に至るまで、どこかとても愛おしく見え、思い入れを持ってしまう。そうしてプレイヤーが島に愛着を持つほど、ラストの島が消滅してしまう展開が効いてくるようになっている。20年前の2Dのゲームをリメイクするにあたって今作のジオラマ風のグラフィックはオリジナルのドット絵がもつ想像の余地を残しつつ、設定やストーリーテリングの面でも意味を持たせ、ビジュアル面でも非常に魅力的なものに仕上げている。Switch版夢をみる島はオリジナルのゲームボーイ版の持つ魅力を大切にした上で、さらに新しく魅力的な作品として完成されており、これ以上にない理想的なリメイクと言えるだろう。

 

 

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ゼルダの伝説 夢をみる島』(2019年)より



 

 

 


amiibo リンク【夢をみる島】(ゼルダの伝説シリーズ)

*1:当時任天堂は2000年のニンテンドースペースワールドゲームキューブ向けにこんな技術デモを発表していた。

https://www.youtube.com/watch?v=i1MrzjeR2NY

ファンが『時のオカリナ』『ムジュラの仮面』路線のどちらかというとフォトリアルよりのグラフィックを期待していたのも無理もないだろう。

『Marvel’s Spider-Man』はワールドトレードセンターの夢を見るか?

PS4の『Marvel’s Spider-Man』は非常に沢山のイースターエッグが隠されているゲームだ。そして、その中には911アメリカ同時多発テロ事件に関するものがあるという話がある。グリニッジの西にあるビルの窓に存在しないはずのツインタワーが映りこむというものだ。

 

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ビルの壁面にツインタワーが映り込んでいる/『Marvel’s Spider-Man』

たしかにビルの窓ガラスにはツインタワーと思わしき2つのビルが映り込んでいる。しかし、カメラを反対側に向けてもそれらしきビルは見当たらない。

 

これはインソムニアックゲームズ911への追悼のメッセージなのではないかと話題になった。しかし海外メディアのPolygonによると、これはイースターエッグではなく単なるゲームの仕様による偶然の産物であるらしい。

 

www.youtube.com

 

Polygonによれば「『Marvel’s Spider-Man』のゲーム中の反射はキューブマッピングという手法によって生成されており、反射の生成に際しては実際の周囲の環境ではなく予め用意されている画像データが使われている。こうして生成された反射はあくまでも近似値であり、実際のゲーム中の周囲の環境を正確に反映しているものではない」ということらしい。

 

たしかにゲーム中のビルの反射をよく見てみると、このビルに限らずあるはずのないものが映っていたり、映るはずのものが映っていなかったりすることがわかる。

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遠景にエンパイアステートビルが映っているにもかかわらず手前のビルにもエンパイアステートビルが映り込んでいる/『Marvel’s Spider-Man』

当然、スパイダーマンの見つめる先に2本目のエンパイアステートビルがあったりはしない。

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こちらのビルには本来ならば映っているはずのスパイダーマンの立っているビルが映り込んでいない/『Marvel’s Spider-Man』

そもそもの大前提として、このゲームのビルの反射は正確なものではないのだ。

では、件のビルに映り込んでいるツインタワーは何か?実はツインタワーを映しているそのビル自身が映り込んでいるのである。

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映り込んだツインタワーの低層部/『Marvel’s Spider-Man』

映り込んだツインタワーの下の方を見ると低層部の構造が実際のワールドトレードセンタービルとは大きく違うことがわかる。そしてこのスパイダーマンが張り付いているビルを反対側から見るとまさに同じような構造のビルが並んでいるのを見ることができる。

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ツインタワーの映り込むビルの反対側の壁面/『Marvel’s Spider-Man』

 

2つの画像を見てもらえればわかるが低層部の造りもビルの窓のパターンも完全に一致する。幻のツインタワーの正体はビルを反対側から見た姿を鏡写しにしたものがそのビル自身の正面に反射として映し出されたものだったのである。

 

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ツインタワーの映り込むビルを裏側から見上げたところ/『Marvel’s Spider-Man』

これは文章を読むより実際にPS4を起動して自分の目で見て動かして確かめたほうが納得してもらえると思う。

 

では、『Marvel’s Spider-Man』には911に関するイースターエッグは存在しないのかというとそういうことでもない。

 

国連本部前やバッテリーパーク、金融街エリアの一際大きい近代的なビルの近くで、911当時マンハッタンから避難する市民のボートについて説明するインソムニアックツアーズ(!)のツアーガイドの説明を聞くことができる。

 

 

そして、何を隠そうこの近代的なビルはゲーム中におけるワン・ワールド・トレード・センターの代替だ。

 

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実際のワン・ワールド・トレード・センター

 photo by Joe Mabel

 

実はこのゲーム、2018年のE3の段階ではゲーム中にワン・ワールド・トレード・センターが存在していたのだ。

 

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「Spider-Man - Open World Gameplay Demo | Sony E3 2018」

https://youtu.be/jzErgDYfmkU?t=103

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製品版で同じ地点から見た風景。1WTCが架空のビルに置き換えられていることがわかる/『Marvel’s Spider-Man』

 

同じようにウォール街にある有名な牛の銅像チャージング・ブルは使用許可が降りずゲーム中では『インヒューマンズ』のキャラクターであるロックジョーの銅像に置き換わっている。

 

 

おそらくワン・ワールド・トレード・センターも何らかの理由で使用許可が得られなかったのであろう。

 

ゲームのファーストカットはこのビルと蜘蛛が映るところから始まる。このビルが発売の数ヶ月前まで1WTCだったことを考えると911への追悼や復興の象徴としての演出だったのではないかと思う。

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ゲーム本編を開始して一番最初の画面/『Marvel’s Spider-Man』

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スタート画面にもビルが大きく映り込んでいる/『Marvel’s Spider-Man』

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本編クリア後操作可能になった場面でもやはり同じビルが大きく映る/『Marvel’s Spider-Man』

 

そもそもスパイダーマンサム・ライミ版1作目の公開前に911が起こり世界貿易センタービルの映っていたポスターを回収、ツインタワーの間に蜘蛛の巣を張りヘリを捕まえるという内容の予告の上映を取りやめ、映画本編に映っていたツインタワーも2箇所を除き消去されたという経緯がある。

 

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よく見るとスパイダーマンの目にツインタワーが映っている/『スパイダーマン』(2002)

そういう経緯のあるキャラクターの作品でビルに幻のツインタワーが映っていると言われると何か感動的なメッセージに思えてしまうが、どうやらそれはただの偶然であるらしい。しかし、ビルに映り込むツインタワーは偶然の産物だったかもしれないが、インソムニアックゲームズによるガイドや復興の象徴としてのフリーダムタワーはたしかにゲーム中に存在していたのだ。

 

 


【PS4】Marvel's Spider-Man Game of the Year Edition

 


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Into the『Marvel’s Spider-Man』

スパイダーマンの生みの親であるスタン・リーは生前インタビューで

 

「頭からつま先まで、すっぽり覆うスーツにしたのは正解だったよ。誰もがスパイダーマンになれる。アフリカ人でもアジア人でもインド人でも、あのスーツを着てスパイダーマンになった姿を想像できるんだ」

 

と語ったことがあるらしい。らしいというのは上記が映画『スパイダーマン:スパイダーバース』パンフレットのコラムからの丸々孫引きであり、原典のインタビューがどこのものだかわからないからだ。(知っている人がいたら教えて欲しい。)

 


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確かにアベンジャーズのメンバーを見てみても顔を完全に隠しているヒーローは意外と少ない。正体を隠したままヒーロー活動を行っているものとなるとなおさらだ。社長だったり、一国の主だったりではなく、普通の若者がプライベートで学業や仕事、恋愛などの卑近な悩みを抱えながら顔を隠してヒーローをやっている。それ故に感情移入がしやすい、そこがスパイダーマンの魅力の一つなのだろう。

スパイダーバースは「”それが正しいことだから”という理由だけで誰かのことを助けられる人こそが”真のスーパーヒーロー”であって、そこには人種も性別も色も種族すらも関係はなく、覚悟を決めマスクを被れば誰だってスパイダーマンになれる」という映画だった。そしてPS4の『Marvel’s Spider-Man』は正に「プレイヤー自身がスパイダーマンになれる」、そんなゲームだ。

 

『Marvel’s Spider-Man』の話がしたい

 

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以下、特に断りがない場合画像は『Marvel’s Spider-Man』より引用

『Marvel’s Spider-Man』の話をするならまず移動の素晴らしさを語っておきたい。本作のウェブを使った移動は本当に楽しい。ただ単に「移動が楽しいゲーム」は今までにもたくさんあったが移動自体は楽しくはあるものの単調ですぐに飽きたりすることも多かった。その点『Marvel’s Spider-Man』の移動はスイング、ウェブ・ジップ、ポイント・ジップ、ポイント・ジャンプを適所ごとに使い分ける必要があってそれによって単調になりづらくなっており、よく工夫されている。それらをうまく使いマーク・ウェブ監督の『アメイジングスパイダーマン2』冒頭シーンのようにスパイダーマンをカッコよく思い通り縦横無尽に動かせたりすると本当に気持ちがいい。単なる移動が一種の魅せプレイになるのだ。

 

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移動をする舞台の街そのものも非常に良くできている。タイムズスクエアエンパイアステートビル、セントラルパークといったニューヨークの観光名所がかなり忠実に再現されており、そうした観光名所を見て回るだけでも相当に楽しい。

 

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タイムズスクエアで自撮り

 

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MGS2でおなじみフェデラルホール

 

 

こういう遊び方もできる。 

 

実際の街とゲームとの比較はこの辺の記事を見るとゲームがいかに良くできているかわかる。

 

www.businessinsider.com

 

ゲーム中のニューヨークには実在の建物や公園だけでなくアベンジャーズタワーやドクター・ストレンジサンクタムブラックパンサーのワカンダ大使館、『スパイダーマン:ホームカミング』にも登場したダメージコントロールなどのイースターエッグも大量に含まれている。

 

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国連本部近くにはサム・ライミ版のオズボーン邸が建っていたりする。

 

  セント・パトリック大聖堂近くのビルの屋上には『スパイダーマン』(2002)で初めてスパイダーマンがMJと会話をする場所が再現されている。

 

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スパイダーマン』(2002)より

 

街の住人たちもゲームの魅力に一役買っている。街角やゲーム中のSNSでときに罵倒を浴びたり称賛を受けたり、JJJのポッドキャストを聞いたりしたり。通行人とハイタッチや握手をできるのも”親愛なる隣人”ならではだろう。

 

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ゲーム中のSNSは見ていて飽きない。本編に出てきた人が投稿をしていることもある

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バットマンではこうはいかない

また収集物として街のあちこちに落ちているアイテムの説明文を通してスパイダーマン活動を始めてからのピーターの歩みやMJとの関係が語られるのも良い。 

 

こうして観光したり、ニューヨーカーと触れ合ったり、SNSを覗いたりして、プレイヤーがゲーム中の街と人に思い入れを持ってきたあたりで、ヴィランが暴れまわり街がめちゃくちゃになったりする。この辺のストーリー展開もプレイヤーの感情の持って行き方が非常に上手いなあと感心してしまう。中盤のピーターが打ちのめされる展開は自分のことのように胸が苦しくなった。

 

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今作オリジナルのスパイダーマンのスーツのデザインも非常に良い。スニーカーのようなソールや胸の蜘蛛マークと手の甲の白い素材など、明確に「走って、跳んで、人を殴る服」としてデザインされているのがたまらない。こうしたディテールが今作のフォトリアルで現実味あふれる世界観に絶妙にマッチしている。

 

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これで殴られたらたぶんめっちゃ痛い

 

殴るといえば今作は戦闘もかなり楽しい。ステルスで一人ひとり倒していくのも良いし、正面切って戦うのもそれはそれで楽しい。ガジェットを使ってギャングたちを文字通り一網打尽したりするのがなかなかに爽快だ。

 

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そして何よりさっきから貼っているフォトモードで撮った写真も本作の大きな魅力のひとつだ。ニューヨークの街で風景写真を撮るのも良し、戦闘中にかっこいい写真を撮るのも良し、手に入れたコスチュームで写真を撮るも良し。とにかく楽しい。

 

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こういう写真を撮るのが最高に楽しい

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フレームやフィルター、スタンプを使うこともできる

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スーツはデモシーンにも反映されるのでシリアスなシーンもこの有様である

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こんな写真がPS4に無限にあるが今日はこれくらいにしておく

このゲームは本物のゲームなのでスパイダーマンがスーツを着ている時と下着姿のときで足音が違う。(裸だとなんだかペタペタという)

 

  色々と良いところを挙げてきたが、このゲームにも不満がないわけではない。特に日本語へのローカライズ関係で英語音声日本語字幕が選べなかったり、街のガヤの一部が日本語音声になっていなかったりするところは非常に惜しい。また、英語音声では移動中と止まっているときでスパイダーマンのセリフの抑揚や息遣いが異なっていたりと非常に細かいこだわりが見えるが日本語音声ではそうなってはいない。

 

 

 

逆に言えばそんなローカライズ関係くらいでしか不満点はない。PS4の売上記録を数多く更新する大ヒットということでヴェノムやゴブリンといったヴィランの登場する続編が作られることにも期待したい。

エクセルシオール!

 

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「シン・ゴジラ第8形態」という嘘について

映画『シン・ゴジラ』に関しインターネットの一部で「公式設定で第8形態まで存在する」という話がある。結論から言うとこれは完全にガセネタである。

ジ・アート・オブ・シンゴジラより
『第4形態は始まりにすぎない』

第5形態…不死、無限再生、無限復活、口がなくなる
小型化ならびに有翼化、巨神兵のような姿に
地球を征服し終える

第6形態…宇宙に適応
独立栄養生物となりガス欠すら克服、永久器官を持ち無尽蔵にエネルギーを作成可能

第7形態…体内に宇宙を持つ、あらゆる元素を任意で製造し自分のものとし自在に肉体を作り替える
あらゆる宇宙環境に耐えられる
宇宙を完全に征服する

第8形態…最終形態、宇宙の外側に出る(物理法則を超越する)
更なる上位存在となり神の次元に到達する

https://hawk.5ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1499319457/

 

まずソースとされている『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』に第6第7第8形態に関する記述は一切存在していないし、そもそも劇中ラストカットで凍結されたゴジラの尻尾に発生した第5形態にはちゃんと口があり、上記の「第5形態には口がない」という記述とも矛盾している。

 

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株式会社カラー『ジ・アート・オブ シン・ゴジラ』p.99よりゴジラ第5形態雛形

見ての通りしっかりと口がある。(非常に歯並びが良い。)

 

ソースとされている書籍にそのような記述がないでのこの時点でデマと言って終わりにしても良いが、せっかくなので何故そんなデマが出てきたかたどって見ようと思う。

 

まず、この第6形態以降に関する話を調べると細かい差異はあれど同じような書き込みが繰り返し行われていることがわかる。

 

1 :風吹けば名無し@無断転載禁止:2017/06/12(月) 17:45:21.09 id:u2xtccm60

第5形態
小型化・有翼化・群体化
細胞レベルで生きており滅却しないと倒せなくなる
感情と痛覚の喪失
ヤシオリ作戦を克服

第6形態
永久機関の獲得、ガス欠の克服(自己でのエネルギー生成、無尽蔵の核融合、水と空気が必須でなくなる)
口と牙の退化&消滅
大気圏を突破して宇宙に

第7形態
体内に宇宙を宿す
あらゆる物質や元素を合成して作り出し、自分のものにするため事実上無敵に
宇宙のあらゆる環境に適応
これよりさらに進化する可能性あり

ソースは日経サイエンス

ついに究極の怪獣やな

【驚愕】シン・ゴジラ、ついに究極の第7形態まで発表される【最強】 [無断転載禁止]©2ch.net

 

1 :風吹けば名無し@無断転載禁止:2017/04/12(水) 02:22:07.68 id:EOrxhE/Nd
・無限に分裂し地球全体に繁殖
・不老不死、たとえ破片にしても破片からゴジラが生まれる
・空気や水すら必要でなくなり、自らエネルギーを生成することが可能に
・口や牙が退化し消滅。ヤシオリ作戦ももう通じない
・無限に核融合が可能になりエネルギー切れを完全に克服、空を飛んで宇宙に進出し別天体に移動
・別天体のような過酷な環境にも耐えられる
・感情もなく痛みを感じない
・第4形態はまだ赤ちゃんの状態にすぎず、これからどんどん進化する
・完全に倒すには細胞レベルで滅却する必要がある

ソース…ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ
シン・ゴジラGENERATION
日経サイエンス12月号

シン・ゴジラの第6形態の全貌が明らかに、これぞマジで最強ゴジラ怪獣wwwwwwwwwwwww [無断転載禁止]©2ch.net

 

1 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2017/02/17(金) 00:38:53.018 id:tMmhpr9Zd
・無限に分裂し地球全体に繁殖
・不老不死
・空気や水すら必要でなくなり自らエネルギーを生成することが可能に
・口や牙が退化しなくなる。ヤシオリ作戦ももう通じない
・無限に核融合が可能になり、宇宙に進出し別天体に移動
・別天体のような過酷な環境にも耐えられる
・第4形態はまだ赤ちゃんの状態にすぎず、これからどんどん進化する

 

もうウルトラ怪獣にも勝てますねこれは……


2 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2017/02/17(金) 00:39:40.490 id:UaAFGMy80
ソースは日経サイエンス12月号に東宝監修でシンゴジラの製作に協力した科学者たちが書いた考察や設定
エネルギー切れもなくさらにパワーアップ、不老不死、無限分裂し延々と進化する

正直ほとんどのウルトラ怪獣倒せるわ

公式で出されたシン・ゴジラの第6形態がチートなことが判明 [無断転載禁止]©2ch.net

 

Googleの期間指定検索を使って初出と思われる書き込みを探すと上の2017年2月17日の5chの書き込みまでさかのぼる事ができ、この時点では「日経サイエンス」がソースとされている。

ここで言う「日経サイエンス」とは『日経サイエンス2016年12月号』の特集:シン・ゴジラの科学のことであろう。

 

www.nikkei-science.com

 

 

この日経サイエンスシン・ゴジラ特集には確かに上で語られているようなゴジラ第5形態以降に関する話が出てくる。

 

「次の第5形態では鋭い歯も頑強な顎もさらには口も失われているかもしれない」(日経サイエンス社発行『日経サイエンス2016年12月号』p.52)

 

「恐竜のような姿の第4形態から、人類や鳥類のような小型化・群体化した第5形態へ、さらに進んで未知の第6形態へと変態を遂げて宇宙に飛び出し、声明を宿らせる新たな天体を目指して飛散していく、というようなシナリオを描けるかもしれない。」(同・p.53)

 

しかし、これらは映画『シン・ゴジラ』に関して様々な分野の研究者がその専門知識をもって語るという特集であり、公式設定でもなんでもない。確かにこの特集に名を連ねる長沼毅氏や松本義久氏は『シン・ゴジラ』に取材協力としてクレジットされているがあくまでも取材協力であり、この特集の中でも

 

 松本義久「新元素にリアリティを持たせるため、「これまで知られていないエネルギー値のガンマ線が検出された」という筋立てをアドバイスした。」(同p.49)

 

 とある通りあくまでも取材協力・アドバイザーの立場である。長沼毅氏も「ゴジラの体長が118.5 mなのは鎌倉幕府の成立年にかけたものではないだろうか(同・p.47)」と語っているレベルであり、とてもではないがゴジラの設定に深く関わる者の発言とは思えない。*1 

シン・ゴジラ第6形態以降の噂話は日経サイエンスの特集の内容を「公式設定」と称し、歪め、語られるうちに尾ひれが付いていったものというのが実態であろう。

 

まとめ

・ネットで語られるようなシン・ゴジラ第6形態以降の話はソースとされている『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』には存在しない

日経サイエンス2016年12月号の特集『シン・ゴジラの科学』に似通った記述が存在するがこれは公式設定とは言えないものである

・上記の特集の内容を「公式設定」と称した2017年2月の書き込みが第6形態以降の話の確認できるネット上での初出であり、そこに尾ひれが付いていったものが『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』をソースとする「ゴジラ第8形態」というデマである

 

以上。

 

 

 

*1:シン・ゴジラ第4形態の体長118.5 mは駆逐艦雪風の全長が元ネタ。(『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』p.525)もし仮に日経サイエンスの記述を公式設定として扱うのであれば「ゴジラの身長は鎌倉幕府成立年が元ネタ」という馬鹿みたいな話が公式設定ということになってしまう。

終わらない『蝿の王国』の話

METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN』はその発売直後から「未完成なのではないか?」「終わっていないのではないか?」という声が数多く聞かれた。限定版付属のBlue-rayに収録された幻のエピソード『蝿の王国』の存在がその声をさらに大きなものにしたのは間違いないだろう。とはいえ実際のところ当時のKONAMIで何が起きたのかは我々ファンに正確かつ客観的な情報は何一つわからないし、世に出た作品や情報から考察ないし想像・妄想を巡らせることくらいしかできない。それこそニーチェの言葉のように。

「事実なるものは存在しない。あるのは解釈だけだ。」

以下は自分なりの”解釈”である。

 

蝿の王国』にはMGS1を彷彿とさせる要素が多数あった。シャドーモセスの再演と言っても良いだろう(作中の時系列的には蝿の王国のほうが前ではあるが)。中部アフリカの塩湖に浮かぶ島(アラスカフォックス諸島沖に浮かぶシャドーモセス島)でイーライ(リキッド)率いる武装集団がサヘラントロプス(メタルギアレックス)による核攻撃と引き換えに「BIGBOSS」の遺体を要求。プレイヤー=スネークは潜入任務に望むことになる。声帯虫とFOXDIEという特定のターゲットを狙った生物兵器というキーワードも相似的だ。白い防護服に身を包んだXOF隊員も白い防寒装備のゲノム兵を連想させる。

 

蝿の王国』が特に顕著ではあるが、思えばV自体にMGS1とリンクするようなところが多くあった。主要人物を見てみてもイーライ、オセロット、第三の子供は後にFOXHOUN隊員としてシャドーモセス島事件に関わるし、クワイエットは女スナイパーであるスナイパー・ウルフとコードトーカーはバルカン・レイブンとネイティブアメリカンという要素で多少なりともそれぞれ重なるところがある。完璧に他人になりすますという意味でヴェノム・スネークはデコイ・オクトパスと共通していると言えなくもないだろう。Vでマザーベースに居た人物が後のFOXHOUND隊員とある部分では直接的にまたある部分ではどことなく重なっているのだ。『THE ART OF METAL GEAR SOLID V』を見るにチコはサイボーグ忍者のポジションだったのかもしれない。*1

 

MGS1とMGSV両方に出てくるのは何も人だけではない。武器にもまた両作に重要なアイテムとして出てくるものがある。「スティンガーミサイル」だ。

 

風に流されないように、タワー2から距離をとって旋回しているハインドに、スネークはスティンガー・ミサイルの照準を合わせる。冷戦時代、旧ソ連の思惑に対抗するため、アメリカ合衆国がアフガンゲリラに供給した武器だ。

(野島一人『メタルギア ソリッド サブスタンスⅠ –シャドーモセス-』角川文庫 p.354)

 

1979年、前年に成立した共産主義の親ソ政権に対する武力蜂起への支援としてソ連アフガニスタンに軍事介入を開始した。ソ連のアフガン侵攻である。これに対し当時ソ連と冷戦状態にあったアメリカはムジャヒディンを名乗る現地アフガンゲリラを非公式に支援。ゲリラを苦しめていた攻撃ヘリ「ハインド」への対抗手段としてスティンガーミサイルを供給した。ライセンスの問題でMGSVでは武器がすべて架空銃となってしまっているが作中で出てくる「ハニービー」は紛れもなく「スティンガーミサイル」だ。

 

すぐに決着がつくかと思われた戦闘はアメリカの支援もあり長期化、1989年にソ連アフガニスタンから撤退することとなる。だがそれだけでは終わらなかった。ソ連撤退後、ムジャヒディンの派閥争いからアフガニスタンは内戦状態へと突入、そうした中からイスラム原理主義組織タリバンが産まれ勢力を拡大*2。9.11同時多発テロとその後のテロとの戦いへと続いていくことになる。アメリカのムジャヒディンに対する支援が9.11の遠因になったのだ。先に引用したノベライズ版MGS1ではシャドーモセスのツインタワーを世界貿易センタービルに重ね合わせる描写がある。世界貿易センタービルを思い起こさせるシャドーモセスのツインタワー上で9.11の遠因となったスティンガーミサイルとハインドの戦いを再演する。MGS2以上に予言めいていると思うのは考え過ぎであろうか。

 

CIAのムジャヒディンに対する軍事支援計画「サイクロン作戦」を書いたジョージ・クライルのノンフィクション『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』のエピローグは以下のように締めくくられている。

 

おそらく、この最後の数ページをエピローグと呼ぶのはまちがいだろう。エピローグとは話の締め括りとなる最終章を意味するものだ。だが、悲しいことに、この物語はけっして終ってなどいないのだ。

(ジョージ・クライル『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー[下]』ハヤカワ文庫p.425)

 

蝿の王国』のラストカットを思い出して欲しい。

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メタルギアソリッドV ファントムペイン SPECIAL EDITION 特典映像Blue-ray『蠅の王国』より

 

MGS1のリキッドのセリフをなぞっただけに思えたイーライのセリフが全く別の意味合いを含んでくる。首で見切れた自由の女神像と在りし日のツインタワーを突きつけプレイヤーに「まだ終わっていない」と語りかける。お前がゲーム本編中で行ったことが今も尾を引いているぞ、と。これほど本作の「復讐の連鎖」というテーマに対して完璧なラストカットがあるだろうか。

 

先のノベライズの作者はインタビューで「“蝿の王国”なんてなくてもいいと思うんです。」と語っていたが*3ぼくにはとてもそうは思えない。「ソ連のアフガン侵攻」、「サイクロン作戦」*4、「ムジャヒディン」といった要素を本編作中で提示した上で「復讐」というテーマに対し『蝿の王国』のラストカットはあまりにも完璧であった。だからこそ制作過程の素材を使った不完全な映像を特典Blue-rayという形で世に出したのではないか? そう思えて仕方ないのだ。

 

海外のメタルギア公式ツイッターが「Episode51は決してエンディングではない」と投稿していたが*5、それはある意味で正しい。だって、この物語は決して終ってなどいないのだから

 

 

 

*1:洋書だけどほぼ全編日本語だし、Blue-rayでは落ち着いて見られない蝿の王国のコンセプトアートもじっくり見られるのでオススメThe Art of Metal Gear Solid V 

 

*2:

CIAの支援を受けたムジャヒディンの中から台頭してきたタリバンKGBの支援を受けたMSFから後に生まれてくるアウターヘブンが相似関係になっているというのは考え過ぎだろうか?

*3:

『MGSV』のストーリーをどう読み解くべきか識者に訊く(1/2) - ファミ通.com

*4:

余談だがWikipediaで「サイクロン作戦」の項を見てみると2018年9月12日現在こんな画像とキャプションが出てくる(サイクロン作戦 - Wikipedia)

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*5:

https://twitter.com/metalgear_en/status/770662138486546432