※『ゼルダの伝説 夢をみる島』のストーリーの根幹に関わるネタバレを含みます。
ゼルダの伝説シリーズは作品ごとに大きくグラフィックの方向性を変えてきたシリーズだ。特に2002年発売の『ゼルダの伝説 風のタクト』はそれまでの作品と大きく方向性を変えたことで発表当時ファンの間で大きな賛否があった。*1
ゼルダの伝説 風のタクト HD Nintendo Direct@E3 2013 出展映像
『ゼルダの伝説 風のタクト』はタイトルの通り「風」がゲームの大きな要素のひとつとなっているゲームだ。風を操ることのできる不思議なタクトを使い、船の帆に風を受け大海原を進んだり、デクの葉という大きな葉っぱを広げて風を受けて滑空したり、風をうまく利用することがゲームの進行や謎解きにおいて重要な鍵になっている。ゲームデザインに「風」という要素が絡んでくるので必然的に風向きを視覚的に表現する必要性が出てくる。そこでこのゲームはアニメ調のグラフィックによって「風」を空中を流れていく白い線として直接表現している。
また、大きな葉っぱで人間が空を飛ぶという現実離れした描写もアニメ調のグラフィックでなら違和感なくプレイヤーに受け入れさせることができる。(フォトリアルなゲームで上の画像と同じことをしているのを想像してみて欲しい)「触れるアニメ」というコンセプトで開発されたこのゲームは今ではファンからの強い人気を得ており、WiiUでもリメイクされている。
同じようなグラフィックとゲームデザインの話は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』にも言える。
ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド 1st トレーラー
ブレス オブ ザ ワイルドでは斧で切った木は瞬時に丸太や木材へと変わり、弓矢で仕留めたイノシシがポンっと漫画チックな肉に変わる。壁はどこでも自由に登れるし、食材をそのまま鍋に投げ込むと盛りつけされた料理が出てきたりする。このような非現実的なゲームデザイン上の嘘をプレイヤーが違和感を覚えずに受け入れられるよう「嘘をつきやすい絵作り」としてブレス オブ ザ ワイルドのアートは設計されているのだ。
最新作Nintendo Switch版の『ゼルダの伝説 夢をみる島』では「触れるアニメ」ならぬ「動かせるジオラマ」とでもいうようなグラフィックで物語の舞台となるコホリント島が描かれる。キャラクターのモデリングもさることながら画面の上下を帯状にぼかすことで被写界深度の浅いミニチュア撮影風の暖かい雰囲気のグラフィックに仕上がっている。
オリジナルのゲームボーイ版の手の中の小さな四角い画面に広がる2Dのドットで描かれた世界をジオラマを覗き込むような世界としてリメイクしたのだ。そして、このジオラマ風のグラフィックという手法は『夢をみる島』の物語とも密接に関わってくる。ストーリー中盤以降、ゲームの舞台であるコホリント島が「かぜのさかな」の見ている夢であることが明かされるのだ。
つまり、このゲームはゲーム中の世界すべてが作り物であると語られるゲームをジオラマという作り物風の表現方法でリメイクするということを行いっている。ゲーム本編が終始ジオラマ風のグラフィックであるのに対し、リンクがコホリント島に流れ着くまでを描いたOPと島を出たあとを描いたEDはアニメーションで描かれていることも島が作り物の世界であることを強調する構造になっている。
ミニチュアのように描かれるコホリント島は住人や動物、敵キャラ、石、木、建物に至るまで、どこかとても愛おしく見え、思い入れを持ってしまう。そうしてプレイヤーが島に愛着を持つほど、ラストの島が消滅してしまう展開が効いてくるようになっている。20年前の2Dのゲームをリメイクするにあたって今作のジオラマ風のグラフィックはオリジナルのドット絵がもつ想像の余地を残しつつ、設定やストーリーテリングの面でも意味を持たせ、ビジュアル面でも非常に魅力的なものに仕上げている。Switch版夢をみる島はオリジナルのゲームボーイ版の持つ魅力を大切にした上で、さらに新しく魅力的な作品として完成されており、これ以上にない理想的なリメイクと言えるだろう。