映画『アンチャーテッド』見てきた。

アンチャーテッド』見てきた。とても良かった。

何が良かったかというと、まずこの映画が映画としてきちんと完成して、ゲームの映画化としてもいい感じのものになっていたこと。というのも映画『アンチャーテッド』には、

 

  • この映画が所謂「映画的なゲーム」の映画化である
  • 映画化が発表されてから実際に制作され、公開されるまで非常に長い時間がかかっており企画自体が難産であった

 

という2点の懸念事項があった。

 

まず、「映画的なゲーム」の映画化という点。アンチャーテッドシリーズは「PLAYする映画」というキャッチコピーからも分かるように、ビデオゲームという媒体でインディージョーンズのようなアクション・アドベンチャー映画を志向した作品だ。こうしたゲームとその元ネタとなった映画の最大の違いはビデオゲームは映画と違いインタラクティブなメディアである、つまりただ受け身で見るのではなく自分で実際にキャラを動かしたりプレイしたりするという点にあり、アンチャーテッドシリーズの魅力ひとつは大作娯楽映画のような大スペクタクルのアクションシーンを実際に自分でプレイできることにある。これを映画化するとなると「自分でプレイできない”PLAYする映画”」という本末転倒なことになってしまわないか?という懸念がどうしても発生する。この懸念はトレーラーで飛行機でのアクションシーンが公開されることでさらに強くものとなる。

 

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というのもこのシーン『アンチャーテッド3』の有名なシーンの再現であり、その『アンチャーテッド3』のシーン自体も映画のオマージュだからだ。

 

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※『アンチャーテッド3』と『007/リビング・デイライツ』の比較動画

 

ただただ原作ゲームを再現しただけの映画だったら原作ゲームをやったほうが良いし、飛行機でのアクションシーンのある映画なら原作の元ネタとなった『007/リビング・デイライツ』がすでにあり、その現代版アップデートとしてもトム・クルーズがすごいのを体張ってやっている。*1 こうなると作品としての立ち位置が中途半端になってしまいかねない。端的に言って元ネタの劣化コピーとなる可能性がある。

 

次に映画公開まで非常に長い時間がかかったという点。実はアンチャーテッド映画化企画は最初の発表が2009年と10年以上も前だ。当時、デイヴィッド・O・ラッセルが監督、マーク・ウォルバーグが主人公のネイトことネイサン・ドレイク役と報じられていたが後に監督が降板。以降何人もの監督の起用と降板を繰り返すことになる。最終的にトム・ホランドソニーに若きジェームズ・ボンドを描いた007のオリジン映画の企画をソニーに持ちかけたことをきっかけに、*2 トム・ホランド演じる若いネイサン・ドレイクを主人公とし、『ヴェノム』のルーベン・フライシャーが監督、マーク・ウォルバーグはネイトからその相棒のサリーへと役柄を変え、ついに制作されることになる。そしていよいよ撮影が始まったというところでコロナによる撮影中断が発生する。*3

 

こうした紆余曲折があったので公開までこぎつけただけでも感慨深いものがあると同時に大きな不安もあったわけだが、冒頭で述べたようにそれも杞憂だった。飛行機のシーンのような原作再現だけに終わらず、「空を飛ぶ海賊船」といった原作の荒唐無稽で過剰なノリを持ち合わせつつ、原作では見られなかったシチュエーションを映画で見せてくれた。映画『アンチャーテッド』は一本の映画としてきちんと面白いと同時に、原作のシリーズの要素を掻い摘んで2時間分の映画として換骨奪胎し、ネイトのジョークや過剰なシチュエーションといった”アンチャーテッドらしさ”をきちんと持っていた。よく言えば手堅く、悪く言えば無難で突出した部分のない映画ではあるかもしれないが、ゲームの映画化としては及第点だ。原作との設定の差異やサリーのキャラが違うといったことを思うファンもいるかも知れないがさっきも言ったように映画とゲームは別の全くメディアだ。なので映画でゲームのストーリーを再現しても仕方ないし、この映画が若きネイサン・ドレイクのサリーとの出会いを描いたオリジンストーリーであることを考えるとサリーの描写も妥当だろうと思う。主演のトム・ホランドもネイサン・ドレイクの若い頃を見事に演じていると感じると同時に、この映画の企画がジェームズ・ボンドのオリジン物をとして動き出した経緯を考えると高級スーツとマティーニのくだりが微笑ましくも思ってしまう。ノーティードッグのスタジオロゴのステッカーがちらっと映ったり、原作でのネイサン・ドレイク役のノーラン・ノースのカメオ出演といった原作ファンがニヤリするシーンも多い。

映画では原作ゲームのネイトのテーマが2度ほど流れる。1回目はノーラン・ノースのカメオ出演でアレンジが、2回目はトム・ホランド演じる若きネイサン・ドレイクがガンホルスターを着けて原作のネイトと同じルックになったところで満を持して原作のNate's Theme 3.0がそのまま使われる。

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原作の曲が、それも1や2、4ではなく3のバージョンが映画館で流れるというのは原作ファンとして非常に嬉しかった。*4

原作というと原作のファンはこの映画を字幕でなく吹替で見たほうが良いかもしれない。自分は字幕で鑑賞したが、ゲームは吹替で慣れ親しんだ人も多いだろうし、原作吹替でネイトを演じた東地宏樹が同じくネイトを演じたノーラン・ノースの吹替を担当しているらしい。*5

 

これを書いてる今現在『アンチャーテッド』はロッテン・トマトで批評家評価で39%、オーディエンススコアで90%となっており、北米市場での興行収入も事前の予測を超えて好調なものとなっている。*6 批評家からの評価はともかく、観客からの評価も高く商業的にも成功しそうだ。

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Uncharted - Rotten Tomatoes

監督や出演者は続編に乗り気なようなので、続編の制作もあとはソニーがGOを出すだけに思える。もしも続編が実現するならその時は倒壊する建物の中での滑りながらの戦闘やネイトが飛び移ったり、ぶら下がった場所が次から次へ崩れていくという原作のお決まりを原作ファンへの笑いどころとしてやって欲しいなと思う。

 

 

 

*1:ちなみに『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のアクションシーンはアンチャーテッド3にインスピレーションを得たと監督が語ってる。

Mission Impossible: Rogue Nation director cites Uncharted 3 as an inspiration • Eurogamer.net

*2:トム・ホランド、『007』若きボンドの映画企画を持ち込んでいた ─ 断られるも、あるミラクルを起こす | THE RIVER

*3:とはいえこの撮影中断は何も悪いことばかりではなく、マーク・ウォルバーグとの並んだ時に自分があまりに細く見えることを気にしたトム・ホランドは、この間トレーニングを積み身体を仕上げることに専念したそうで、実際に映画劇中で鍛え上げた肉体を披露する場面ではあまりにムキムキぷりにちょっとビックリした。

*4:ところでこのシーン、原作ファンとして非常に感動的であると同時にちょっと笑ってしまった。というのもこの映画でネイトはほぼ銃を使わずこのシーンに至るまでも敵に対して明確に殺意を持った攻撃をほとんどしてこなかった。それがガンホルスターを着けて銃を撃ち始めた途端原作のテーマが流れ出すのだ。原作ゲームにおいて「ネイサン・ドレイクは人を殺しすぎでは?」という批判を度々されてきたのもあり銃と暴力がネイサン・ドレイクの本質と語っているようでおかしくてしかたがない。

*5:しかしながら字幕に比べて吹替版の上映回数が少ないように感じる。ゲームが原作であることを考えると吹替のほうが需要が多そうなものだが……。パンフレットや劇場グッズがないのも寂しい。次回作があればその時はドレイク卿の指輪ネックレスとか十字架のペーパーウェイトを劇場のグッズ売り場で売って欲しい。

*6:CNN.co.jp : 映画「アンチャーテッド」、北米興収50億円で市場予測上回る