『DEATH STRANDING』ディレクターズカット版での「アセクシュアルな世界」加筆修正に関して

先月やっと重い腰を上げPS5を購入し、DEATH STRANDINGのディレクターズカット版をプレイしました。そこで一箇所気になった点があったので書き残しておきます。他に言及している人もあまり居ないようなので

 

 

DEATH STRANDINGのゲーム内テキストのひとつに『アセクシュアルな世界』というものがあります。

PS4版『DEATH STRANDING』「アセクシュアルな世界」

デスストランディングが起きる前から、人は触れ合うことを恐れはじめていたのかもしれない。
当時の記録で見つけた話だ。
若い世代を中心に、"セックスのない生活”を求める傾向が強くなっていた。他人に対して性的欲求や愛情を抱けないアセクシュアル (無性愛) と呼ばれる人間が増えて いた。生殖行為そのものをしなくなり、性を楽しむこともしなくなってきたのだ。だが、すべての人間がそうだったわけではない。親密な関係になる相手にだけ、ごくまれに性的欲望を感じるデミセクシュアル (半性愛) 性的な欲求はないが、あらゆる人に恋愛感情を抱くパンロマンティック (全愛情) など、新たな性的アイデンティティをもつ人間が登場したという。
デスストランディングがその傾向に拍車をかけた。BTと接触し、飲み込まれると対消滅を起こす。その事実が、他者と接し、深い関係を結ぶことを恐れさせたんだ。肉体的な要因による不妊のせいではなく、出生率は激減した。それと並行して、性犯罪や性暴力も減少した。人が接触しなければ、誕生という喜びも、暴力という悲劇も起こらない。少なくともこの大陸の多くの人が、アセクシュアルとなってしまったんだ。

 

この文章は問題点だらけです。まず、アセクシュアルとは他者に対して性的に惹かれないセクシュアリティのことですが、このテキストでは「他人に対して性的欲求や愛情を抱けない」となぜか”愛情”というワードが入った上に”抱けない”と否定的なニュアンスで説明がなされています。 (もし、何が問題かピンと来ないのであれば同性愛者に関して「異性に対して性的欲求や愛情を抱けない人間」と書かれた文章があったらどうか想像してみてください。) また性的指向の用語を出しつつ「"セックスのない生活”を求める傾向が強くなっていた」とまるでライフスタイルか何かのように書き、そうした性的アイデンティティをもつ人間が増えたせいで出生率が激減したとしているのは明確に差別的です。

 

こうした指摘は発売当初からなされており、海外メディアPolygonはコジマプロダクションに問い合わせを行ったが回答はなかったと当時の記事の中で書いています。

www.polygon.com

 

このような問題のあった「アセクシュアルな世界」ですが、PS5のディレクターズカット版では以下の文章が追加されていました。

PS5『DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT』の「アセクシュアルな世界」

要再検証事項:
このドキュメントは、根拠が薄弱で差別的な理論に依拠している。これを読む際には下記の注意が必要である。
定説では、多様なセクシュアリティが社会的に認識されるようになり、自分が異性愛ではないということを自覚する人が増えてきたとされている。
歴史を振り返ると、異性愛者以外の人々が社会から差別・迫害を受けてきたことは明白であり、生き残るために自分のセクシュアリティを隠すに至ったとされる。デスストランディング前後の出産率の変化、性生活の変化には、様々な要因がある、というのが現在では一般的な見解である。
なお、現在も研究は進んでいる。

 

ディレクターズカット版発売に際して指摘を受けての訂正があった事自体は喜ばしいと思いますし、「差別的な理論に依拠している」とはっきり書かれたことは非常に大きいと思います。

しかしながら、PS4版DEATH STRANDINGに関しては2023年5月8日(Game Version 1.13)時点で修正等は特になく、オリジナルの差別的なテキストがそのまま放置された状態です。差別的な内容のテキストが良くなかったということであれば、PS5版での追加要素としてではなく、指摘があった時点で声明を出し会社のスタンスをはっきりさせた上でアップデートにてテキストの修正をするなどの対応を取るべきだったのではないかと思います。